いつも無表情で感情を表に出さず。さらに一人で本ばかり読んでいる。
つまり、近寄りがたい存在だった。
だが、ある事件がきっかけで、彼女はアンダーポイント・風澤望とメル友になった。
現在では、週に一度は会って話す関係だ。
* * *
その日、帰宅した神那子は、真っ先に鞄から学生証を取り出した。
学生証は身分証明の他、様々な機能を持っている。その内のひとつがメール機能だ。
──望さんへ
よろしければ、明日の放課後、一緒に学生地区の図書館へ行きませんか?
そこで、あのシリーズの本を探しましょう。
図書館が苦手とのことでしたが、利用方法や本の探し方など、私がきちんと教えるので安心してください。
それさえ覚えれば、きっと図書館が好きになると思います。
──神那子
PS 料理の経験はあまりないのですが、挑戦してみたいと思っています。
メールを送信すると、神那子は検索システムを呼び出す。
図書館のデータベースを調べ、目当ての本が貸し出されていないことを確認すると、神那子は画面に表示された『予約』に触れようとした。
が、そこで手を止める。
「……用意周到過ぎますね」
神那子は学生証をテーブルに置くと、バスルームへむかった。
* * *
入浴を終え、部屋に戻ってきた神那子は、再び学生証を手に取った。
「……」
返信はきていない。
しばらく学生証を眺めていた神那子は、もう一度メールを打った。
──望さんへ
用事があるのなら、またの機会にしましょうか。
それとも、図書館に行くのは気が進みませんか?
──神那子
メールが送信されたことを確認すると、神那子は鞄から本を取り出し、読書を始めた。
だが、しばらくすると本から目を離して、テーブルの学生証へと視線を向ける。
返信は来ていない。
読書を再開しようとするが、すぐにチラチラと学生証を盗み見てしまう。
とうとう神那子は読書を中断し、再び学生証を手に取った。
何度も何度も、画面に穴が開きそうなほど、送信したメールの文面の確認をする。
その顔は無表情のままだったが、決して何も感じていないわけではない。感情が表に出ていないだけだ。
しばらくして、神那子は意を決したようにメールを打ち始めた。
──望さんへ
図書館に誘ったこと、押し付けがましかったでしょうか?
気分を害されたようでしたら、謝ります。ごめんなさい。
それとも、料理の件でしょうか?
──神那子
メールを送信し、学生証をテーブルの上に戻す。
読書は再開しなかった。
神那子は、少しうつむいて目を閉じる。
しばらくして──静かに目を開けた神那子は、学生証をそっと覗き見る。
返信はきていない。
神那子の瞳が左右に揺れた。さらに、目がだんだん潤んでいく。
神那子は膝を抱え、顔を埋めた。
「望さん、どうしてですか?」
部屋に一人きり、弱々しく呟く。
ゆっくりとした動作で、神那子はまたメールを打った。
──望さんへ
ごめんなさい。私を嫌いにならないでください。
──神那子
学生証をテーブルに戻そうとした時、メールの受信音が鳴り響いた。
急いで返信された内容を確認する。
──神那子へ
さっきからアタシにメールしているよ。
──レイ
神那子はしばらく身動きがとれなかった。
レイは神那子の専属カウンセラーを勤める人物だ。親代わり、といっても過言ではない。昔から、毎日のようにメールのやりとりを続けている。
震える指で、今まで送ったメールの宛先を確認する。
「……あうぅぅッ」
変な声が出た。
* * *
織戸神那子は最重要能力者である。
真面目で近寄りがたいが、こんなドジもする女の子だ。
作:ありあけ