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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2013/03/18

+Cな日々 その9
(鳴らない学生証)

 織戸神那子は、国で最も貴重な能力を持つ【最重要能力者】である。
 
 いつも無表情で感情を表に出さず。さらに一人で本ばかり読んでいる。
 つまり、近寄りがたい存在だった。

 だが、ある事件がきっかけで、彼女はアンダーポイント・風澤望とメル友になった。
 現在では、週に一度は会って話す関係だ。

* * *

 その日、帰宅した神那子は、真っ先に鞄から学生証を取り出した。
 学生証は身分証明の他、様々な機能を持っている。その内のひとつがメール機能だ。


 ──望さんへ

 よろしければ、明日の放課後、一緒に学生地区の図書館へ行きませんか?
 そこで、あのシリーズの本を探しましょう。
 図書館が苦手とのことでしたが、利用方法や本の探し方など、私がきちんと教えるので安心してください。

 それさえ覚えれば、きっと図書館が好きになると思います。

 ──神那子

 PS 料理の経験はあまりないのですが、挑戦してみたいと思っています。


 メールを送信すると、神那子は検索システムを呼び出す。
 図書館のデータベースを調べ、目当ての本が貸し出されていないことを確認すると、神那子は画面に表示された『予約』に触れようとした。

 が、そこで手を止める。

「……用意周到過ぎますね」

 神那子は学生証をテーブルに置くと、バスルームへむかった。

* * *

 入浴を終え、部屋に戻ってきた神那子は、再び学生証を手に取った。

「……」

 返信はきていない。

 しばらく学生証を眺めていた神那子は、もう一度メールを打った。


 ──望さんへ

 用事があるのなら、またの機会にしましょうか。
 それとも、図書館に行くのは気が進みませんか?

 ──神那子


 メールが送信されたことを確認すると、神那子は鞄から本を取り出し、読書を始めた。
 だが、しばらくすると本から目を離して、テーブルの学生証へと視線を向ける。

 返信は来ていない。

 読書を再開しようとするが、すぐにチラチラと学生証を盗み見てしまう。
 とうとう神那子は読書を中断し、再び学生証を手に取った。
 何度も何度も、画面に穴が開きそうなほど、送信したメールの文面の確認をする。
 その顔は無表情のままだったが、決して何も感じていないわけではない。感情が表に出ていないだけだ。
 しばらくして、神那子は意を決したようにメールを打ち始めた。


 ──望さんへ

 図書館に誘ったこと、押し付けがましかったでしょうか?
 気分を害されたようでしたら、謝ります。ごめんなさい。

 それとも、料理の件でしょうか?

 ──神那子


 メールを送信し、学生証をテーブルの上に戻す。
 読書は再開しなかった。
 神那子は、少しうつむいて目を閉じる。
 しばらくして──静かに目を開けた神那子は、学生証をそっと覗き見る。
 
 返信はきていない。

 神那子の瞳が左右に揺れた。さらに、目がだんだん潤んでいく。
 神那子は膝を抱え、顔を埋めた。

「望さん、どうしてですか?」

 部屋に一人きり、弱々しく呟く。
 ゆっくりとした動作で、神那子はまたメールを打った。


 ──望さんへ

 ごめんなさい。私を嫌いにならないでください。

 ──神那子


 学生証をテーブルに戻そうとした時、メールの受信音が鳴り響いた。
 急いで返信された内容を確認する。


 ──神那子へ

 さっきからアタシにメールしているよ。

 ──レイ


 神那子はしばらく身動きがとれなかった。
 レイは神那子の専属カウンセラーを勤める人物だ。親代わり、といっても過言ではない。昔から、毎日のようにメールのやりとりを続けている。

 震える指で、今まで送ったメールの宛先を確認する。

「……あうぅぅッ」

 変な声が出た。

* * *

 織戸神那子は最重要能力者である。
 真面目で近寄りがたいが、こんなドジもする女の子だ。

作:ありあけ