だが、恋人同士ではない。様々な事情が絡まった結果だ。
* * *
ある日のこと。
望がキッチンを覗くと、ひなたが晩ご飯を作っていた。
「美味しそうな匂いがする。何を作っているの?」
「ハンバーグよ」
「いいなあ……」
望のお腹がぐう、と鳴った。
しかし、一緒に暮らすにあたり、二人はいくつかのルールを決めている。
そのうちのひとつが「食事は個別に用意する」ということだ。
「はぁ……僕、ご飯買ってくるね」
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
台所を出て行こうとする望を、ひなたが止めた。
「少し作りすぎちゃったから、あなたの分も用意してあげるわ」
「ほ、本当?」
「ええ。ただし、今日だけよ」
「うん、わかった。ありがとう、ひなた!」
望は満面の笑みを浮かべる。
うれしさのあまり、彼女に飛びついてしまいそうだった。
* * *
それから10分後。
ひなたの作った夕食がテーブルに並ぶ。
ハンバーグにお味噌汁、ツナとコーンのサラダ、お浸し、そして大盛りのご飯。
普段、コンビニ弁当やスーパーの惣菜ばかり食べている望にとって、久しぶりに見る「家庭の味」だった。
「いただきます」
行儀よく手を合わせると、望はさっそく箸を手に取った。
「もぐもぐ……わぁ、おいしい」
「当たり前でしょう。マズイなんて言ったらぶっ飛ばすわよ」
そう言いながらも、ひなたは少し嬉しそうだった。
「ひなたって、料理がうまいんだね」
「そう? 自慢できるほどではないわよ」
「そうかなあ。僕、ひなたは良いお嫁さんになると思うよ」
「お、お嫁さん……!?」
ひなたの顔が、みるみるうちに赤くなる。
「あ、あのさ……もしもの話だけど。お嫁さんにするなら、望は料理が上手な人が良いの?」
「そうだね。僕、料理とか苦手だし。……でも、僕なんかのところに、そんなお嫁さんが来るわけないか」
「……あたしは、望も良い旦那さんになると思うけどなぁ」
ひなたの言葉に、望は本気で驚いた。
「僕が? どうして?」
望が首をかしげてそう尋ねると、ひなたはなぜか目を逸らした。
「え? それは、その……そんな風に食べてもらえるのは、作った人間としては嬉しいし」
「うーん、そういうものなの?」
「……うん」
視線を逸らしたまま、ひなたが真っ赤な顔でうなずく。
しかし、望にはその理由がさっぱりわからない。
「そうだ! 今日のお礼に、明日は僕が作るね」
「え、あなたが? 大丈夫? 料理なんてできるの?」
ひなたが不安そうな顔をすると、望は自信たっぷりに答えた。
「ひどいなぁ。少しなら、僕にだってできるよ」
「本当に? ……まあ、そこまで言うならお願いしようかな」
「うん、任せておいて!」
* * *
──翌日の夜。
「……ごめん」
望が深々と頭を下げる。
テーブルの上に置かれているのは、2個のカップ麺だった。
ひなたは、黙ってカップ麺を食べ始める。
「怒ってる、よね?」
「……どうして?」
「まかせて、って言ったのに、上手くいかなかったから」
望がうつむく。かなり落ち込んでいるようだった。
そんな望の様子に、ひなたがため息をついた。
「怒ってないわ。あなたが一生懸命やったのは、見ればわかるもの」
「……ひなた……」
「あたしのためにがんばってくれてありがとう、望」
ひなたの言葉に、望が涙を浮かべる。
「そんな顔していないで、早く食べなさい。麺が伸びるわよ」
「うん、食べる」
顔をくしゃくしゃにしながら、望は麺をすする。
その様子に、ひなたが優しく微笑んだ。
「また今度、ご飯を作ってあげる。でも、毎日じゃないわよ。時々ね」
「でも、僕は……」
「別に、あなたにも作れなんて言わないわ」
「そういうことなら……ぜひ、お願いします」
望が深々と頭を下げる。ひなたがまた笑った。
* * *
望とひなたは二人暮らしをしている。
最近は、ひなたがときどき料理をふるまってくれるようになった。
作:ありあけ