執行部とは、能力を悪用する生徒を取り締まる組織、『生徒会』の実働部隊だ。
中でも検挙率がトップであったため、エースと呼ばれている。
さらに文武両道で品行方正。
どこかのアンダーポイントとは大違いだ。
+ + +
「隊長ッ!!」
「わかってる。違反者はこの辺りに潜んでいるはずだ。一条、周囲を警戒しろ」
「了解」
ひなたが気を引き締め、さっと身構える。任務中だった。
上司の剛山正尚や他の執行部と共に、現場へ出動している最中だ。
(今日の違反者はやたら反抗的ね。普通はあたし達がやってきたら降参するんだけど)
今回、ひなたたちが追っているのは、念動力、またはサイコキネシスと呼ばれる能力を持つ者だ。
この手の能力者を相手にすると、距離を取られるので苦労する。
『違反者の位置を捕捉したわ。一条さん、貴女の正面15メートルよ。そこから様子をうかがっている』
インカムから、葉澄コウが情報を伝える。
「了解しました。直ちに……」
『待って……近くに固定されていない物が、たくさんあるわ。不用意に、接近したら危険よ』
ひなたが、ギリと歯を噛みしめる。
剛山に目配せすると、手を突き出して待てと合図された。
(これだから念動力って好きじゃないのよ)
数秒間の沈黙の後、剛山が、部隊全員に指示を出す。
『お前ら、話は聞いていたな? オレと一条が囮になる。他のメンバーは、迂回して違反者の背後に回り込め……一条、問題ないな?』
「問題ないです」
「よし、オレの背後の回れ、いつもので行くぞ」
「了解しました」
駆け寄ると、彼の背後に立つ。
「いつでも行けます」
「まずは、呼吸を整えろ」
指摘されて、自分の息があがっていることに気づいた。
違反者が、距離を置いて逃げ回るため、今回の出動は長丁場になっている。
さすがのひなたも、疲れが出ていた。
「……もう大丈夫です」
「よし、行くぞ」
剛山が、防御盾を構える。
その背に隠れるように、彼女が身を屈めた。
「GOッ」
二人同時に駆け出す。
すぐに、防御盾に、なにかが打ちつけられる音がした。
続けて数度、打撃音が響く。
(今ッ)
その時、音が止んだ。
「『ゲット・レディ?』」
セーフティースペルを口にした瞬間、ひなたの高速移動が発動した。
剛山の背後から飛び出す。
違反者の少年は、真正面にいた。
そのまま加速して、一気に距離を詰めようとする。
剛山が叫んだ。
「一条!」
横から、鉄パイプが飛んできた。
それを紙一重で回避する。
鉄パイプは、そのまま反対側のビルの窓ガラスを粉々にした。
「まだだ、来るぞ!」
粉々になったガラス片が、ひなたを目がけて飛んできた。
(念動力でガラスを? まったく、小賢しいわねッ!!)
迫り来る、数々のガラス片を凝視し、息を止める。
その体に、鋭利な凶器が降り注ぐ寸前……彼女が消えた。
(全部、かわすわッ)
十数のガラス片を、加速と最小限の動きで回避してみせた。
ガラス片が地面や壁に当たって砕け散る。
「違反者、確保ッ」
振り向くと、迂回してきた同僚達によって、違反者が取り押さえられていた。
ひなたが、注意を引きつけたおかげだろう。
防御盾を抱えた剛山が側にやってくる。
「一瞬、ヒヤっとしたぜ」
彼が安堵の表情を浮かべた。
「あら、あんなの朝飯前よ」
「……チッ、言いやがる」
直後に、二人は小さく笑った。
その後、違反者の搬送手続きをしたり、出動報告を情報分析班とまとめるなどして時間が過ぎた。
自宅に戻る頃には、日が落ちて、あたりは暗くなっていた。
玄関の前で、はあ、とため息をつく。
帰宅したと思ったら、疲れがどっと襲ってきた。
今日の任務はいつもよりハードだった。
ドアを開けて中に入る。
「ただいま」
すると、ひとりの少年が出迎えにきた。
「おかえり、ひなた」
彼が、満面の笑みを向ける。
「アイス買ってあるから、後で一緒に食べない?」
「あ、うん……ご飯を食べてからね」
その笑顔を見ていると、疲れがスッと消えていくのを感じた。
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一条ひなたは執行部のエースである。
現在、アンダーポイントの風澤望と二人暮らしをしている。
作:津上蒼詞