第二世代能力者とは、スターティングコールの後に、人工的に生み出された能力者のことだ。つまり特別なのである。
さらに、10歳で高校進学を果たすほど頭が良く、クリッとした青い瞳とプックリとしたほっぺの可愛らしい美少女だ。
そんなイリーナに、最近『お兄ちゃん』ができた。
同級生の風澤望だ。
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「お、お兄ちゃん、どうしちゃったの?」
いつも脳天気な彼が、今日は死んだ魚のような目をして、うなだれている。
なにやら落ち込んでいるらしい。頬には、どういうわけか、くっきりと手形がついている。
「ああ、イリーナ。うん、ちょっとね」
「なにがあったの?」
理由を聞き出そうとしても要領を得ない。
どうやら、ひなたを怒らせてしまったらしいのだが、本人は、どうして彼女が怒ったのかわからないようだ。
望が、わかっていないのだから、理由を聞いても、まともな説明は返ってこない。
「それじゃあ、わかんないよ。お兄ちゃん」
イリーナがひなたに視線をむける。
「あー、わかっちゃった」
自分の席で、ムスっとしている彼女を見て、イリーナはすべてを理解したらしい。
10歳で高校進学を果たした頭脳は伊達じゃないのだ。
「ねえ、お兄ちゃん。ひなたは怒る前に『今日は、いつもと違う』とか、そういうことを言ってなかった?」
「そう言えば、そんなことを言っていたかも。よくわかったね」
「……お兄ちゃん」
再び、イリーナがひなたに目をむける。
彼女の髪型がいつもと違う。
ヘアピンで止めたり、所々、編み込んでいたり、時間がかかったはずだ。
それに望が、気づかなかったというわけだ。
少女は兄の鈍感さに呆れた。
「それじゃあ、ぶたれてもしかたないよ」
「あ、これはひなたじゃないんだ」
「え? どういうことなの?」
聞けば、頬の手形は、織戸によってつけられたらしい。
なんらかのアクシデントでスカートの中を覗いてしまい、その後、ビンタをされたのだという。
それも、最低です。とまで言われてしまったようだ。
「神那子がそれだけで手をあげるのかな?」
イリーナが首をひねる。
「……お兄ちゃん、さあ。その時、神那子が履いていたパンツがどうとか言った?」
「え? あー、そうだね。見られて落ち込んでたから、織戸さんのパンツが見れて良かった、とかそんなことを言って励まそうと……」
「お兄ちゃんッ!!」
イリーナが声を上げる。
物わかりのいい妹もさすがに黙っていられなかった。
「え? 何? イリーナまで怒っちゃったの?」
つくづくデリカシーのない兄だと思った。
ビンタを食らうのも当然だろう。
腹を立てたわけではないが、彼にはお仕置きが必要だと思った。
「そうだよ。イリーナも怒っちゃった。お兄ちゃんは反省するべきッ」
そう言って人差し指を突きつけると、くるりと望に背をむけた。
「そんな、どうして……イリーナまで?」
イリーナの言葉が、よほどショックだったのだろう。
望は、真っ白になり、石のように硬直してしまった。
イリーナが望のもとから立ち去る。
鈍感でデリカシーのない兄のために、妹にはやらなければならないことがあるのだ。
(まずは、ひなたから、なんとかしなくっちゃ)
ひなたの前まで行くと、何も知らない顔で声をかける。
「かわいい。それ、どうしたの?」
「……べつに、ちょっとね」
最初は、ムスっとしていたひなたも「イリーナにもして欲しい」とお願いすると、渋々了承してくれた。
髪を結ってもらっている最中、自然と望の話を始める。
「……えー、気づかなかったの?」
「そうなのよ。普通、気づくわよね」
「お兄ちゃんのことは大好きだけど、そこは直して欲しいなあ」
髪のセットが終わる頃には、ひなたの機嫌もよくなっていた。
「ありがとう、ひなた」
「どういたしまして」
お礼を言って、次の場所へと移動した。
(次は、神那子をなんとかしなくっちゃ)
イリーナが織戸の前に立つ。
「ねえねえ、神那子……」
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イリーナ・アンダーソンは第二世代能力者である。
風澤望という世話のかかる『お兄ちゃん』がいる。
作:津上蒼詞