飛行能力ではなく、浮遊能力なのはあまり速く飛べないからだ。アンダーポイントほど微弱ではないが、高レベル能力者というわけではない。
つまり川崎朋世は普通の生徒なのである。本人曰く、胸だって普通よりちょっぴり大きいだけ、らしい。
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その日、朋世が大食堂でお昼を食べていると、友人の日高咲見が含みのある口調で言った。
「朋世、気づいてた?」
「気づいていた、ってなにを?」
朋世が首をかしげる。
「あそこの先輩たちが、チラチラこっち見てる」
少し離れたテーブルに座っている数人の男子生徒のことだった。
朋世が視線を向けると、男子生徒の一人と目が合った。
「気づいてなかったって顔ね」
「……うん」
「朋世は目立つからねえ」
それが、絶世の美少女だから、という理由なら胸を張れるのかもしれない。
だが、朋世は胸を張るどころか、背中を丸めて小さくなってしまった。
「主に胸が」
「……咲見のイジワル」
朋世は顔を真っ赤にしながら、意地悪な友人に抗議した。
「もちろん、アタシは朋世の胸だけじゃなくて、ちょっとくせっ毛な髪とぱっちり二重におちょぼ口なスイーティーフェイスはいいところだと思ってる」
咲見が二ッと顔全体をつり上げた。
友人の言葉通り、朋世は美少女と言って差し支えのない容姿をしている。体型も細身の方だ。
普通より、ちょっぴり大きい胸、にみんなの視線が誘導されてしまうだけだ。
そう、ちょっぴり大きい、それだけ。
「もお、私が気にしてるの知ってるくせに」
「それはしかたがないよ。朋世をからかうのはアタシの趣味だからね。あ、ちなみに朋世をからかっていいのはアタシだけね」
「……意味が、わからないよ」
「アタシがわかっているから問題ないの」
咲見が不敵な笑みを浮かべた。
彼女と言い合っても勝てる気がしないので、朋世は無視して食事を続けることにした。
「……ごちそうさま。そろそろ教室にもどる?」
「そうね。このまま朋世の胸をヤロー達に視姦させているのももったいないし」
「もう、咲見ッ」
「あはは、朋世は怒った顔もかわいいぞ」
咲見にからかわれて、朋世は少しだけ腹を立てた。
食器の乗ったトレイを手に勢い良く立ち上がる。
そのとき、そばを通った少年とぶつかってしまった。
「おわッ」
「きゃ」
ぶつかった拍子で、飲み残していたジュースが朋世の制服にかかってしまう。
「ごめん、友だちとの話に夢中になってて……拭く物は」
少年は慌てた様子で、テーブルに備え付けられていたティッシュをつかみとる。
「大丈夫かな? シミになったら大変だよ。制服だし……本当にごめんね」
少年が、濡れた部分にティッシュを押し当てた。
「コーヒーやカフェじゃないから、シミにはならないだろうけど……」
「あ、ああ……あのッ」
朋世が体がプルプルと震えていた。顔の方は耳まで真っ赤だ。
その理由は、少年が手を押し付けている部分が、朋世の、ちょっぴり大きな胸、だったからだ。
かなり焦っていたのか、押しつけるというよりもつかんでいると表現した方が正しいだろう。彼の指の間からは、彼女の胸が、ぷにっ、とはみ出している。
「い、いや、これはッ、あの……」
ようやく相手も気づいたようだ。
少年が、取り乱した様子で弁解する。
「ち、違うッ、違うんだ。別に、僕は……」
「……それなら、も、もう離してもらえますか?」
朋世の胸は、少年の手によってつかまれたままだった。
「えッ、わぁああッ……ごめんッ。本当に」
相手が慌てて手を引っ込める。
少年の顔も、朋世と同じように真っ赤になっていた。
「あの、悪気はなかったんだよ……本当だよ、川崎さん」
少年が朋世の名前を口にした。
それによって朋世は、相手がクラスで、アンダーポイント5人組、と呼ばれている男子の一人、風澤望だと気づいた。
つまり、クラスメイトに胸を揉まれてしまったわけだ。
朋世の顔が、さらに赤くなる。あまりの恥ずかしさで、顔から火が出るんじゃなかと思った。
「……き、気にしてないから」
朋世には、そう言ってうなずくのが精一杯だった。
「本当、朋世はかーわいーいなぁ」
顔を真っ赤にしている二人を見て、咲見が楽しそうに笑っていた。
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川崎朋世は浮遊能力者である。
本人曰く、胸は普通よりちょっぴり大きいだけ、らしい。
作:津上蒼詞