風澤望はアンダーポイントである。
そんな彼が、ひょんなことから一条ひなたと一緒に暮らすようになった。現在、同棲中である。
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ある日の夕食後。
望は、ひなたがリビングで作業をしていることに気づいた。
「ん? ひなた、なにやってるの?」
望がのぞき込むと、テーブルには見かけない道具や、大小さまざまなパーツが並んでいた。ひなたは、それらを手慣れた様子で扱っていた。
「警棒のメンテナンスよ。ほら、これはグリップ」
ひなたが短い棒状のパーツを持ち上げた。
「あーッ、本当だ。これって、警棒なんだ」
望はテーブルに並んでいるパーツが、バラバラに分解された警棒であることに気づいた。
ひなたが任務に使用しているのは、伸縮構造のある警棒のため、分解すると小さなピンやバネなど細かいパーツで構成されている。そのため、望は彼女に説明されるまでは、それが分解された警棒だと気づかなかったのだ。
「こう言うの……整備? 自分でしているんだね」
「もちろんよ。これは、あたしの仕事道具だからね。肝心なときに使えなかったら、任務に支障をきたすでしょ? だから、日頃からメンテナンスはかかせないわ」
ひなたは、そう言うと素早く警棒を組み立てた。
「なんか……すごい」
「そう? 自分の道具をメンテナンスするのは、スポーツをやっている人と同じじゃない? 野球選手はグローブを手入れするし、テニス選手はラケットのガットを張り替え、サッカー選手ならシューズの手入れとか、あたしはそれと同じ感覚でやってるから、特別なことをしているつもりはないわ」
「ふーん、スポーツ選手と同じかあ……それなら、納得」
ひなたが組み立てた警棒に、慎重にグリップテープをまいていく。その姿は、アスリート、という言葉がぴったりだった──と、望はこんな風に思った。
「スポーツ選手って、グローブとかラケットとか、一つじゃなくてたくさん持っていたりするけど、ひなたはどうなの?」
それは、何気ない質問だった。
だが、その瞬間……ひなたが、うれしそうな顔になった。
「なに? もしかして……他のやつも見たい?」
ひなたが笑顔で望にたずねた。とても、断れるような雰囲気ではない。
「そ、それじゃあ、見せてもらおうかな?」
「ちょっと、待ってて。部屋から取ってくるッ!!」
ひなたが駆け足で自室に行くと、すぐにリビングへともどってきた。その手には、バスケットボールが何個も入りそうな大きなスポーツバックを抱えている。
「いつも使っているのは二段階伸縮の警棒なんだけど、これは……」
ひなたがスポーツバックから縮めた警棒を二本取り出すと、それを望の目の前で勢いよくふる。すると、その警棒は1メートル以上の長さになった。
危うく、彼に当たりそうになったが、ひなたは気にせず話し始める。
「これは四段階伸縮のストップピン式なの。四段階伸縮はそれほど珍しくないんだけど、それのストップピン式の警棒はなかなかないのよね。ほとんどは、摩擦ロック。でも、あたしはストップピン派だから……」
ひなたが喜々として警棒の話をする。
望が、それを止められるような雰囲気ではなかった。
「へ、へえ……そうなんだ。よく見つけたね」
「でしょ? 探すのに時間かかったんだよ。ようやく、手に入れた時はうれしかったなあ。でも、任務に使えるかっていうと、長すぎて室内戦闘には使えないんだよね。今まで、一回ぐらいしか使ったことないの……あと、これも見てよ」
次々に、ひなたはスポーツバックから警棒を取り出すと、その説明をしていく。しかし、聞いている望は途中からなにが違うのかわからなかった。
「そうそう、これッ、本当は任務で使いたいんだけど、申請が通らなくて駄目なのよね」
そう言って、ひなたがバックから取り出したのはトンファーだった。彼女はそれを慣れた様子で振り回す。
「攻守のバランスが完璧なのよ。こうしてガードでしょ? で、そのまま突きも出せるし、はい、これで十分なリーチと威力を出せる」
「……うん、すごそうだね」
「でも武器として優秀すぎるから、執行部の装備としては過剰装備って扱いになっちゃうらしいの。もったいないなあ」
自分の世界に入ってしまったひなたは、それから深夜になるまで望に武装コレクションの説明を続けた。
「これ知ってる? 犀(さい)って言うんだけど、琉球古武術の武器で、あたしの師匠が……」
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風澤望と一条ひなたは二人暮らしをしている。
この日以来、望はひなたに警棒の話題はふらないと決めた。
作:津上蒼詞