ひょんなことからイリーナ・アンダーソンという、10歳でクラスメイトの優秀な妹ができた。
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休憩時間。望とイリーナがおしゃべりをしていると、クラスメイトの女子が話しかけてきた。
「あー、また風澤くんがイリーナちゃんを独り占めしてるぅ」
彼女は冗談っぽく言うと、イリーナの隣に座った。
すると、彼女以外にも数人のクラスメイトが二人のもとにやってくる。
「また独り占めにしているの?」
「まったく、こんなアンダーポイントのどこがいいのかしら?」
「イリーナちゃん、話すなら俺たちと話そうよ」
集まってきたクラスメイトの目的はイリーナだ。すぐに彼女は、取り囲まれてしまった。みんな、この小さな美少女と仲良くしたいのだ。
そんな状況に、望が苦笑いを浮かべる。
(あはは、さすがイリーナ。大人気だな)
こんな風にイリーナを目当てに、クラスメイトが集まってくるのはよくある光景だった。
「わあ、そのバッグかわいい」
女子生徒の一人が、イリーナが下げている板チョコの形をしたバッグをのぞき込んだ。
「かわいいでしょう? イリーナも、ひとめ見て気に入っちゃったんだ」
イリーナがバックを胸元にかざしながら、満面の笑みを浮かべる。
「この前、持っていたクッキーサンドのバッグもかわいかったけど、これもかわいい……あ、ファスナーのつまみもチョコの形なんだ」
「そうなの。これが、かわいいの」
「本当だ。芸が細かい。いいね」
みんながイリーナのバックの話題で盛り上がる。望も「へえ」と感心したように、バックをのぞき込んでいた。
「……もしかして、中に本物のチョコが入っていたりして?」
ひとりの生徒が、冗談っぽくたずねた。
「チョコ? うん、入ってるよ」
イリーナはバッグを開けると、その中から一口サイズに包まれたチョコレートを取り出した。
「ほ、本当に入ってたの?」
「やばい、おもしろい」
板チョコの形をしたバッグの中から本物のチョコレートがでてきたことに、みんなは驚いたり、おもしろがったりと様々な反応を示した。
「はい、どうぞ」
イリーナがクラスメイトたちにチョコレートを手渡していく。
「イリーナちゃん、これくれるの?」
「うん、他にもキャンディとかクッキーとかもあるよ」
イリーナがバッグの口を広げて中を見せる。彼女の言う通り、バッグの中には別のお菓子がいくつか入っていた。
望もクラスメイトたちと一緒に中をのぞき込んだ。
「はい、みんなもどうぞ」
イリーナはキャンディを2つだけ残して、バッグの中身を周りのクラスメイトたちにあげてしまった。
「はい、これはお兄ちゃんの分。残りは、イリーナの」
イリーナが望にキャンディを差し出す。
「ありがとう、イリーナ」
望がそれを受け取ると、イリーナは最後のキャンディの包みを開けて、自分の口に入れた。
(イリーナって、いつもショルダーバックを持ち歩いていて、中にはお菓子が入っているんだよね)
イリーナがお菓子を入れたバッグを持ち歩いているのを望は知っていた。一緒にいる時間が多いので、彼女がそこから取り出したお菓子を食べる姿を見る機会はよくあった。また、今みたいに、お菓子をわけてもらったことは何度もあった。
(やっぱり、お菓子を切らさないように毎日、バッグに補充しているのかな?)
望はイリーナのバッグに入っているお菓子について、今までは、気にしたことなどはなかった。だが、こうしてクラスメイトにあげるために、お菓子を用意しているのだとすると、10歳児だとは思えない気配りだと思った。
(年下だけど、こういう、イリーナの気が利くところは見習わなくちゃなあ)
望がしみじみと感心していると、今までイリーナを取り囲んでいたクラスメイトたちがサッと自分たちの席に戻っていった。
「?」
数十秒の後、離れていったクラスメイトたちが戻ってくる。
「これ、もらったお菓子のお礼」
「私もお返し、イリーナちゃんにあげる」
戻ってきたクラスメイトはキャンディやクッキーなど、さまざまなお菓子を手にしていた。それが、次々にイリーナのバッグに納められていく。
さらに、他のクラスメイトたちもやってきた。
「そうそう、この前にもらったお菓子のお礼していなかったよね」
「俺も、昨日もらったチョコのお返しを持ってきたんだ」
からっぽだったイリーナのバッグは、あっと言う間に、入りきらないほどのお菓子で満たされた。
「わぁ、いっぱいになっちゃった」
お菓子で膨らんだバッグを見て、イリーナが満面の笑みを浮かべる。
(……なんとなく、お菓子の入手経路がわかった気がする)
クラスメイトの中心で、うれしそうに笑う妹を見つめる兄の脳裏には『わらしべ長者』という言葉がうかんでいた。
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風澤望はアンダーポイントである。
クラスのみんなから愛されるイリーナ・アンダーソンという妹がいる。
作:津上蒼詞