結波市は、ヴァリエンティアの教育と超能力研究の名目で、同世代の若者が集められている。
そういった状況では、ファッション、ミュージックを中心に若者たち独自のカルチャー(文化)が培われていくのは想像に難しくない。
多くの場合、大人たちが提供する既存のメディアでは、そういったカルチャーの中心にいる若者たちの欲求を満たすことはできない。結波市のみならず、他の高度政令都市に暮らす学生たちは、そんなフラストレーションを持っていたはずだ。
そこで、高度政令都市に暮らしている彼らが目をつけたのは、全生徒が所持している学生証による通信だった。
はじめこそ、学校単位のサーバーで行われていたテキスト投稿掲示板などが主流だったが、『生徒会』の設立後、現職の生徒会長によって生徒会が運営する新型大容量サーバー『アルピニア』を学生証ユーザーへ解放したことにより、若者たちのカルチャーは『アルピニア』に舞台を移した。
『アルピニア』はその莫大なデータ領域を生かし、ユーザーに対してアップロードできるテキスト、画像、音声、動画などの容量制限を行っておらず、利用者はほぼ無制限に『アルピニア』による通信を無料で行うことができた。
これにより、若者たちのカルチャーはさらに加速する。
さらに『アルピニア』の解放から一年後には、結波市の学生だけではなく、他の高度政令都市の学生に向けてもサービスを拡大したことも、このカルチャーを加速させた要因の一つだろう。
自らを表現したい若者たちのフラストレーションと『アルピニア』という舞台。それらがそろったことにより、近年では「ヴァリエンティア・カルチャー」「ネオ・カルチャー」などと称される新しいユース・カルチャーが生まれた。
そんな彼らのカルチャーを象徴している文化が、ネットラジオだと個人的には考えている。
『アルピニア』という大容量サーバーを介した通信なら、より視覚的なネット放送を行うことも容易だが(現に、アルピニアには個人向けネットTVのサービスもある)、多くの若者たちが支持したのは音声のみのネットラジオだった。
ネットラジオが支持された理由を断言することは難しいが、ユーザーである若者たちが学生であったことが理由にあげられるだろう。
学生であるため、彼らは一日の多くを学業に専念しなければならない。趣味や娯楽に割ける時間は、放課後や休日などの限られた時間でしかないのだ。
そんな学生たちにとって、音声のみのネットラジオは、同時に別の娯楽に興じることができるため、視聴しているユーザー側にとって非常に都合がよかった。
また制作している学生たちにとっても、「音声のみ」に限定したことで、個人でも質の高い番組を提供することが可能だった。
この制作側とユーザー側に大きな利点があったことが、学生たちがネットラジオを支持した理由であったと考えられる。
現在では、多くの企業が彼らのカルチャーに対して評価を示し、学生クリエイターたちのスポンサーとして全面的なバックアップをする企業も増えてきている。
──猪瀬忠明著『ヴァリエンティア文化~新しいユース・カルチャー~』序章より抜粋
作:昌和ロビンソン