そして織戸神那子は最重要能力者で、イリーナ・アンダーソンは第二世代能力者である。
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昼休み。
ひなたと織戸、そしてイリーナの三人は、校内ストアへとやってきた。
「ここのストアは、品ぞろえが豊富だから、きっといいモノが見つかると思うわ」
そう言うと、ひなたはストアの一角へと2人を連れていった。
「たくさんありますね。この売場、全てですか?」
「わあ、いっぱいある。どれにしようかな?」
商品棚には、ずらりと学生証ケースが並んでいた。
3人がここへやってきたのは、イリーナの学生証ケースを選ぶためだ。
昼休みに3人で昼食を食べていると、イリーナがおもむろに取り出した学生証を見て、ひなたと織戸が「ケースに入れずに学生証を持ち歩くのはよくない」と指摘した。
高度政令都市で暮らしている学生たちは、学生証とよばれる、通話、メール、電子マネーなどの機能を持つ、モバイルを所持している。学生証の名の通り、身分証明証の役割も持っているため、常に携帯していることが義務づけられているが、精密機械であるため保護用のケースに入れて持ち歩くのが一般的だった。
イリーナは、最近になって結波市へとやってきたため、ケースを買っていなかったのだ。
「……いっぱいあって、迷っちゃう」
売り場を見渡したイリーナは、困ったようにつぶやいた。
「……ねえ、ひなた。神那子。2人はどんなケースを使っているの?」
「参考になるかわからないけど……あたしのはこれよ」
「私のケースですか? ……どうぞ、これです」
そう言って、ひなたと織戸が自分の学生証をイリーナに差し出した。
「ひなたのケースはシンプルだね。赤いぷにぷにで、できてる」
「シリコンケースよ。これが一番、耐久性に優れていると思ったからね」
イリーナはシリコンケースの手触りを確かめながら学生証を見回す。と、少女はあるモノに気づいた。
「あ、かわいいのが付いてる。これは?」
「イヤホンジャックのアクセサリ。こういうのもストアで買えるはずよ」
「星型に型抜きされたミニプレートですね。シンプルですがいいデザインだと思います」
「そう? ありがとう。織戸さん」
続いてイリーナは、織戸の学生証に目を向けた。
「神那子のケースはレザー製なんだ。手帳みたい」
「織戸さん。これって、本革なの?」
「そうらしいです。親しい方からのプレゼントなので、詳しくは存じませんが、手触りがよいので気に入っています」
「すべすべしてる。気持ちいい」
ひなたは、織戸のケースを見つめて苦笑いを浮かべた。
「たぶん、これってオーダーメイドじゃないかしら? だとしたら、すごく高価なモノよ」
「どうなんでしょう? 私には、よくわかりません」
織戸が自分のケースを見ながら小首をかしげる。
そんな彼女を見つめるひなたは、自分に言い聞かせるように小さくつぶやいた。
「……うん、知らない方がいいと思う。きっと」
それからしばらく、3人で売場を見て回った。
ストアの品揃えが豊富だったため、なかなか決められなかったが、イリーナがある商品を見て目を輝かせた。
「これ、かわいい」
「いいんじゃない? イリーナにあってるわよ」
「そうですね。かわいらしいケースだと思います」
イリーナが目をとめたのは、動物の形をしたケースだった。学生証の上部にそれぞれの動物の耳が飛び出ているデザインだ。
「見て、見て。後ろにしっぽもついてる……でも、お顔がないよ」
「そうね。こんなデザインなのかしら?」
「いえ、違うようです」
商品のパッケージを眺めていた織戸が、裏の説明文を読みながら答えた。
「どうやら、専用のアプリケーションがあるようです。それを学生証にインストールすると……こんな風に、ディスプレイに動物の顔が表示されるようです」
織戸がパッケージの裏に載っている写真を見せると、イリーナの表情がパッと明るくなった。
「イリーナ、これにする。このクマさんのにする!」
こうして3人は、無事に買い物を終えることができた。
イリーナはクマのケースを購入すると、さっそく専用のアプリをインストールする。そのアプリは、ディスプレイにクマの顔を表示させるだけではなく、デジタルペットの機能も兼ね備えていた。
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この日以来。イリーナは自分の学生証を『リッキー』と呼ぶようになった。
作:津上蒼詞