何隻もの50000トン超の超大型客船が、沖合に停泊している風景は圧巻だ。また、夜になると停泊しているフェリーの明かりが、水平線にそって煌めく。それは、この時期の結波市では、風物詩となっている。
オーシャンライン社のフェリーが、ある時期になると結波市に押し寄せる理由は、学生たちが長期休暇を親元で過ごすために県外へ渡航させるためだ。
結波市は高度政令都市だ。そこには、40万人以上の学生が暮らしている。夏期休暇や冬期休暇になると、そんな彼らを一斉に親元へ帰さなければならない。
結波市は、本州と海でへだてられた沖縄県にある。40万の人間を各地へ渡航させる手段は、限られている。そこで、運営委員会が採用したのは、何十隻もの超大型客船による海上輸送だった。
それを任された運航会社は、都市建設から結波市に深く関わっていたアクアリウム社の傘下にある、アクアリウム・オーシャンライン社だった。
オーシャンライン社は、当時から世界的なフェリー運航会社として名の知れた企業だ。
この一大事業を成し遂げられる企業は、オーシャンライン社の他になかっただろう。
長期休暇の前後で、40万人規模の渡航というだけでも桁外れな大事業だが、オーシャンライン社は国から補助金と運営委員会からの支払いだけで運営している。フェリーを利用する生徒やその親からは、運賃をとっていないのだ。
国と運営委員会の支払いだけでは、間違いなく利益は上がらないはずだが、オーシャンライン社は何年にもわたって、この事業を続けることができている。
長年、多くの企業家や事業主が、このことに大きな疑問を抱いていた。
そのカラクリを理解するためには、オーシャンライン社だけではなく、親会社のアクアリウム社と傘下の企業に注目するのが肝心だ。
アクアリウム社の傘下には、100以上のホテル経営や300以上の多彩なサービス業を行っている企業がある。
これだけの企業を傘下に持つアクアリウム社は、それに比例する膨大な人員を抱えていることになる。さらに世界有数の優良企業であるアクアリウム社には、毎年、新たな人材が各企業に集まってくるのだ。
そして、生徒たちが乗船する50000トンクラスの超大型客船は、アーケードや多数のレストラン店、各種アミューズメントを備えた総合施設だ。
そこでアクアリウム社は、40万人の生徒を渡航させる大事業を、各企業の社員研修の場にすることにした。
これによりオーシャンライン社は、毎年定期的に各企業へ社員研修の場を提供することで、事業損失を充分な研修料で補うことができた。
また、研修を受ける企業は、良質な社員研修を低コストで受けさせることができる。それにより、大きなコストダウンとサービスの向上を成し遂げた。
以上が、国と運営委員会からの援助だけで、毎年、40万人の生徒を渡航させ続けるオーシャンライン社のカラクリである。
実にアクアリウム的な運営だと、私は感じた。
──猪瀬忠明著『アクアリウムという名のシステム』より抜粋
作:昌和ロビンソン