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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2013/11/29

+Cな日々 その33
(ブラックコーヒーとミントティー)

 桐島麗子は織戸神那子の専属カウンセラーである。
 さらに超能力研究施設「セントラル」の所長も勤める優秀な人物だった。
 桐島と織戸は「レイ」「神那子」と呼び合うほど親密な関係だ。ある事情により、両親と離れて暮らしている織戸にとって、桐島は親代わりと言っても過言ではないだろう。

+ + +

 日曜日の午後。

 織戸は桐島と一緒にセントラルで昼食を取った後、二人で研究地区のカフェへと足を運んだ。
 超能力研究員や施設の職員が多く働いている研究地区には、彼らを対象にした飲食店が多い。ヴァリエンティアたちが暮らしている学生地区に出店している飲食店と比べると、シンプルで落ち着いた店構えの店舗が多いのが特徴だ。
 二人が訪れたのも、そんな研究地区にあるカフェの一つだった。

「アタシはブラックコーヒーにするけど、神那子はどうする?」

 窓際の席に着くと、桐島が備え付けられていたメニューを織戸に手渡した。桐島はこの店によく足を運んでいたので、メニューを見なくても注文する物は決まっていた。

「私はミントティーにします」
「一緒に甘い物も注文しようか? この店はモンブランがおいしいって評判なのよ」
「では、そのモンブランをいただきます」

 桐島が注文を取りに来た店員に、ミントティーとブラックコーヒー、そしてモンブランを二つ注文した。

「レイとカフェに来るのは久しぶりですね」

 織戸はそう言うと、店内を見回した。彼女をこのカフェに連れてくるのは初めてだった。
 オフィス街にありそうな、シックで清潔感のあるカフェ。桐島が好む大人な雰囲気の店だった。
 きっと織戸も気に入ってくれるだろうと思い、今日はこのカフェを選んだ。

「ごめんね。最近、少し忙しかったから」

 桐島が苦笑いを浮かべながら手を合わせた。
 どこか甘えるようなその仕草からは、普段の桐島からは想像もできないほどかわいらしい。

 セントラルの所長として、職員や研究者に対応している時の桐島は、はっきり言って怖い人物だ。ギラギラと鋭い眼光で相手を居抜き、ドスのきいた低い声で命令を下す。
 セントラルで働く者の多くは、所長室へ出向くことに恐怖を感じているほどだった。

 そんな桐島が優しく言葉をかけたり、穏和な態度で接するのは織戸だけだ。
 桐島が織戸のカウンセラーを勤め始めたのは、所長になる数年前になる。その頃から、織戸に対しては今のように接していた。
 むしろ、織戸と接しているときの彼女こそが、本来の桐島の姿なのだろう。

「なんとか時間を作って、もう少し神那子と話したいんだけどね」
「あまり無理はしないでください。話しなら毎日メールでしているじゃないですか」

 織戸がそう答えると、桐島は「そうなんだけどね」とつぶやいた。

「近いうちに、また時間を作るわ。その時は、また一緒に食事でもしましょう」
「はい。楽しみにしています」

 織戸の返事を聞いて、桐島が大きくうなずいた。

 ちょうどその時、注文した飲み物とモンブランをトレイに乗せた店員がやってきた。
 二人が座っているテーブルに、ミントティーとブラックコーヒー、小さなチョコレートが上に乗った二つのモンブランが並べられた。

「おいしそうですね」
「遠慮しないで食べて」
「はい」

「……ところで神那子。学校の方はどう?」

 織戸がミントティーとモンブランを一口づつ口にしたところで、桐島が訪ねた。

「クラスメイトの人たちには、とても良くしてもらっています。最近は図書委員を勤めている方に、ぜひ図書委員になってほしいと誘われました」
「図書委員?」
「だめ、ですか?」
「そんなことないわよ。もし神那子にやる気があるなら、アタシの方で検査や実験の予定を合わせるから」
「……それなら、お願いします」

 織戸がミントティーを口にする。
 彼女のはいっさい表情を変えず無表情だったが、桐島には小さく肩をすくめながら両手でティーカップを口に運ぶその仕草から、かなり喜んでいるのだとわかった。
 織戸はいつも無表情で、感情を表に出さない少女だ。そのため勘違いをされやすい人物だったが、つき合いが長い桐島には、些細な変化から、彼女の気持ちをくみ取ることができた。

「そうだ。来週の水曜日に時間が取れそうだから、彼をアタシのところに連れてきて」

 桐島がそう言うと、織戸は視線を上下させた後にとコクンとうなずいた。

「はい。望さんに伝えておきます」

 織戸は学生証を取り出すと、さっそくメールを打ち始めた。
 そんな彼女を見ながら、桐島が苦笑いを浮かべる。

 風澤望は、織戸のクラスメイトの男子生徒だ。
 考えなしのバカで超がつくほどのお人好し、それ故に、織戸のために呆れるようなバカをしでかした少年だ。そして現在は、桐島の個人研究に協力させるために、月に二度ほど呼び出している。

(あんなクソガキのどこが良いのかねえ?)

 桐島が首をかしげた。

 織戸にとって、望という少年は特別であるらしい。
 桐島は、彼女がどんな経緯でそんな気持ちを抱いたのか、詳しくは知らない。
 だが、なんとなく想像はできた。

(これは神那子にとって悪いことじゃないんだけど……なんか悔しいのよね)

 そんな気持ちをおくびにも出さず、桐島はブラックコーヒーを口にする。
 今日のコーヒーは、いつもより苦いような気がした。

+ + +

 桐島麗子はセントラルの所長である。
 多忙な生活を送る彼女は、これから先も最重要能力者・織戸神那子の成長を見守り続ける。
 いつの日か目にするだろう、織戸の笑顔を見るために。


作:津上蒼詞