* 登場人物の関係性
風澤望→風澤望(父)
一条ひなた→風澤ひなた(母)
織戸神那子→風澤神那子(姉)
イリーナ・アンダーソン→風澤伊里奈(妹)
注:作中では「イリーナ」と表記しています。
鳴島隆人→鳴島隆人(望の会社の同僚)
葉澄コウ→剛山コウ(ひなたのママ友)
剛山正尚→剛山正尚(望の上司であり、コウの夫)
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風澤望は妻と二人の娘を持つお父さんである。
大学を卒業後、それなりの会社に就職し、二十代で結婚をして家庭を築いた。
そんな、どこにでもありそうな家庭を守る、どこにでもいそうなお父さんだ。
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2014年1月1日。午前0時。
「ハッピーニューイヤー! 視聴者のみなさん、あけましておめでとうございます」
テレビのカウントダウンが、年が明けたことを伝える。
望もリビングの家族にむかって新年の挨拶をした。
「あけましておめでとう。今年も良い一年になるといいね」
はじめに、挨拶を返してきたのは妻のひなただった。
「あけましておめでとう、あなた。今年も家族みんなが健康に過ごせるといいわね……あと、今年こそあなたが昇進できれば最高なんだけど」
新年早々、妻がチクリと釘を刺してくる。
望は苦笑いをする事しかできなかった。
「あはは……僕もそう思うなあ」
「もうあなた、しっかりしてよね……さあ、神那子にイリーナもパパにご挨拶しなさい」
ひなたが娘たちにそう言うと、テレビを見ていたイリーナがくるりと顔をむけた。
「ハッピーニューイヤー!」
イリーナが満面の笑みを浮かべながら、望へと駆け寄ってきた。
そのまま、父の胸に飛び込んでくる。
「おわッ、どうしたんだい、イリーナ?」
「パパ、大好き!」
「そ、そうかい? パパもイリーナのことが大好きだよ」
娘・イリーナのあまりにストレートな愛情表現に、望は面食らってしまう。
イリーナは10歳になる次女だが、いまだに父が大好きという、かなりのお父さんっ子だ。ことあるごとに、こうして望に抱きついてくる。
もちろん、父である望にとっては喜ばしいことなのだが、時々、その言動が過ぎるので心配になることがあった。
「パパも大好きなの? うれしい。イリーナ、パパと結婚する」
「ええっ! そうな?」
「うん、パパのお嫁さんになる! だめなの? パパ、もしかしてイリーナと結婚するのイヤ?」
「もちろん、嫌じゃないよ。そうだね。大きくなったらパパと……」
「うん、結婚する!」
「イリーナ、いい加減にパパから離れなさい!」
妻のひなたが、望からイリーナを引き剥がす。
イリーナから開放された望は、ひなたに視線を向ける。
(ひなた、助かった。ありがとう)
(まったく。あなたは、イリーナを甘やかしすぎなのよ)
(うっ……ごめん)
という、やりとりを夫と妻がアイコンタクトで交わす。
「……」
一方、長女の神那子は、父と妹、母のやりとりを冷ややかな目で見ていた。
望がその視線に気づいて目を向けると、神那子はぷいっと顔を背けた。
「……か、神那子?」
望の表情が暗くなる。
すると妻のひなたは、そんな父と娘のやりとりを見て小さくため息をついた。
「ほら、神那子もパパに挨拶しなさい」
「……あけましておめでとうございます」
神那子は顔を背けたまま、新年の挨拶を口にした。
長女の神那子は14歳。思春期まっさかりの女の子だ。
望がひなたに小さな声でたずねる。
「最近、神那子がまともに話しをしてくれないんだけど、これって反抗期なのかな?」
「反抗期?」
「ほら、いつもあんな調子でさ。無愛想と言うか無表情と言うか、口数だって少ないし……」
望の言い分に、ひなたは、あー、と声を漏らした。
(うん、パパには悪いんだけど、実は神那子が無愛想だったり、口数が少ないのってあなたの前だけなのよね。でも、あなたを嫌っているわけじゃないと思う。父の日やパパの誕生日なんかは、神那子が率先してプレゼントを選んだり、お祝いの準備をしているんだから……きっと照れ隠しなんでしょうね……いったい誰に似たのかしら?)
ひなたが望と神那子を交互に見つめる。
だが、夫に娘の胸の内を伝えるようなことはしなかった。
(そう言えば、あたしも望と出会った頃は素直になれなくて文句を言ったり、無茶苦茶な要求をしたんだっけ……え? これって、あたしの血が出ちゃってるの?)
ひなたが夫との馴れ初めを思い出しながら表情を引きつらせていると、望が情けない顔で助けを求めてきた。
「ママ。僕はどうすればいいと思う?」
「わかるでしょう? 諦めなさい(主に、あたしの娘だから、と言う意味で)」
ひなたに一蹴されたことで、望はますます情けない表情になった。
それから娘たちにお年玉をあげたり、年越しそばを食べたりしながら、風澤家の四人は元旦のひとときを過ごした。
それは、ちょうど年越しそばを片付け終えた時だった。
来客を告げるインターホンが鳴る。
「あら、誰か来たみたいね」
「たぶん、隆人だと思う。来るって言ってたから」
望が玄関へ向かうと、外から数人の話し声が聞こえてきた。
同僚の鳴島隆人の声もあるが、それ以外の人物の声も聞こえてくる。
急いで玄関のドアをあけると、そこに三人の来客の姿があった。
「よう! 望。きてやったぞ」
「あけましておめでとうございます。新年の挨拶にうかがいました」
「新年早々だが、おじゃまするぜ」
「いらっしゃい、隆人。それに剛山部長とその奥さんも。どうぞ入ってください」
そこには派手なジャケットを着た隆人と、和装に身を包んだ剛山夫妻がいた。
ひなたが剛山夫妻の声を聞きつけ、リビングから玄関へとやってくる。
「コウさん。旦那さんも一緒に来てくれたんですか」
「ええ、これから初詣に行くのですけど、ひなたさんたちも一緒にどうかと思いまして」
「コウが是非、あんたら家族と行きたいと言ってきてな。悪いがつき合ってもらえねえか? 車はこっちで出すからよ」
剛山夫妻の誘いを受けて、ひなたが望に目配せをする。
「いいんじゃないかな? 僕たちもこれから初詣に行こうと思っていたところだし」
望がそう言うと、ひなたがうれしそうに微笑んだ。
すぐに彼女がリビングにいる娘たちを呼びにいく。
「ちなみに、俺も一緒に行くからな」
隆人がそう行って胸を張った。
胸を張る意味はわからなかったが、元々意味などないのかもしれない。よく見ると彼の顔はうっすら赤くなっている。少しアルコールが入っているようだ。
「もちろんだよ。隆人も一緒に行こうよ」
そこへ、ひなたと一緒に神那子とイリーナがやってきた。
「……あけましておめでとうございます」
「えっと、ね……ハッピーニューイヤー」
二人の娘が、隆人と剛山夫妻に挨拶をする。
「お、いいね。ハッピーニューイヤー!!」
「あけましておめでとう。神那子ちゃんにイリーナちゃん」
「ほう、お嬢ちゃんたち。ちゃんと挨拶ができるのは偉いぞ。さっそくだが……」
剛山夫妻の夫・正尚が、あけましておめでとう、と言いながら、娘たちにお年玉を渡していく。
「……ありがとうございます」
「ありがとう……見て、パパ。お年玉もらっちゃった」
「いい? 二人とも無駄遣いしちゃだめよ……コウさんにご主人も、ありがとうございます」
ひなたが、剛山夫妻に礼を言う。
そんなやりとりを踏まえて、今度は周囲の視線が自然とある人物へと向けられた。
「え? な、なに?」
同僚の隆人だ。
「お年玉をあげるのは、独身は免除される……よね?」
「鳴島さん」
「お前な……そんな訳ないだろ」
お年玉をなんとか誤魔化そうとする隆人だったが、会社の上司である正尚の言葉で観念したようだ。
コウが差し出してきた予備のお年玉袋を受け取ると、涙目になりながら財布を開いた。
「……ありがとうございます。鳴島さん」
「隆人、ありがとう」
「二人とも、こうしてお年玉をあげたんだから、大きくなったらおじさんと結婚するんだぞ」
「……お返しします」
「イヤ。だって、イリーナはパパと結婚するんだもん!」
隆人の発言に、さすがの神那子も眉をひそめてお年玉袋を突き返そうとする。
望の時と違い、本気で嫌がっているようだった。
隆人があわてて発言を訂正する。
「ご、ごめん。今の冗談。冗談だから! だから睨まないでよ、神那子ちゃん」
隆人はふたりの機嫌を治すため、さらなるお年玉の増額とこれから行く初詣の屋台で散財する約束までしなければならなかった。
そんな同僚を見て、望はただただ苦笑いをする。
「よし。それじゃあ、みんなで初詣に行くよ」
そう言うと、望は妻とふたりの娘を連れて玄関を出た。
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風澤望は妻と二人の娘を持つパパである。
こうして新年を迎えた、どこにでもありそうな家庭を守る、どにでもいそうなお父さんだ。
作:津上蒼詞