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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2014/03/14

+Cな日々 その40
(フルヴァルト・クエスト1)

 風澤望はアンダーポイントである。
 アンダーポイントとは研究対象にもならない微弱な能力者につけられた名称だ。
 そんな望は、ある出来事がきっかけで織戸神那子と仲良くなり、彼女から本を読むことをすすめられた。

+ + +

「それは『フルヴァルト・クエスト』ですね」

 望が図書館で本を選んでいると、一緒にやってきた織戸が話しかけてきた。

「織戸さん、この本のこと知ってるの?」
「読んだことはありませんが、たしか数年前に流行ったシリーズのはずです。剣と魔法の世界を舞台にしたハイファンタジーですよ」
「剣と魔法の世界か、そう言う小説、読んでみたいと思っていたんだよね」

 望はその本を借りることにした。

+ + +

 自宅に戻った望は、さっそく借りてきた『フルヴァルト・クエスト』を読み始めた。


 ──フルヴァルト大陸の大国、ミスルード王国の若き騎士ホープスは、近年王国の悩みの種となっている魔物の進出を調査することになった。謁見の間で、国王から直々に調査を任命されたホープスは、意気揚々と城を後にする。


「いいね。いかにもファンタジーって感じじゃん」

 フルヴァルト・クエストの冒頭は、ファンタジー作品としてはかなりステロタイプだったが、この手の小説をあまり読んだことのない望には魅力的だった。

 彼は、さらに本を読み進めていく。


 ──ホープスが城門を出た時、若く美しい女性に声をかけられた。

「貴方が魔物の調査に行く騎士ね。見た目は頼りないけど、この際、我慢するわ。さあ、あたしも調査に連れていきなさい!」

 ホープスはすぐに彼女の正体がわかった。国王の娘・マナカ王女だ。王女の同行に難色を示すホープスだったが、彼女の強引な態度に負けて、一緒に魔物の調査に向かうことになる。


「うわ、なんかすごいヒロインが出てきちゃった」

 主人公のホープスは、物語が始まった直後に登場したヒロインのマナカ王女によって、冒険に出る前からひっかき回されてしまう。
 しかし、読者である望はマナカ王女の言動に困惑するホープスに共感していった。


 ──マナカ王女の強引な勧誘により、新たに見習い魔術師・カーナと若き盗賊・カイトを仲間にしたホープスたちは、魔物がやってくるという北の樹海へとむかった。
 樹海の中を進むホープスたちは、魔物におそわれているフェアリーを助けたことで、森の妖精・リリュから樹海に異変が起きていることを知らされる。


「それにしても王女がめちゃくちゃ強い! 曲刀の二刀流って、あなたは本当に王女ですか? ……それに比べてると、主人公は料理担当じゃん」

 望は当初、マナカ王女はトラブルメーカーでしかないと思っていたが、魔物との戦いが始まると強力なバトルヒロインであることが判明した。その戦闘力は良く知る『執行部のエース』を彷彿とさせるほどの戦いぶりで、思わず苦笑いを浮かべてしまった。


 ──森の妖精・リリュの案内で異変が起きている場所へとやってきたホープスたちは、邪悪な魔術師によって樹海の動物たちが魔物にされていることを突き止める。

「まさか、このまま引き返すつもりじゃないでしょうね。あたし達で、その魔術師を倒すのよ!」

 本来、ホープスたちは調査に来ただけだったが、マナカ王女がそう言い出したためにリリュを含めた5人で魔術師を倒すことになった。


「まあ、この王女ならそう言うよね。頑張れ、ホープス」

 物語も終盤にさしかかり、すっかり感情移入していた望は、ヒロインによって不運にも邪悪な魔術師と戦うことになった主人公を心から応援した。


 ──ホープスは仲間たちと協力して、なんとか魔術師の根城をつきとめ、元凶である邪悪な魔術師と対峙する。自ら生み出した魔物たちを操る相手に、ホープスたちは苦戦を強いられたが、なんとか魔術師を倒すことができた。
 しかし、その戦闘のさなか、魔物からマナカ王女を守ろうとしたホープスが重傷を負ってしまう。


「いや、でもマナカを体を張って守ったのは、すごく格好良かったと思う。いちおう、ちゃんとホープスが魔術師のとどめを刺していたし……たまたま、だけど」

 フルヴァルト・クエストのホープスはどちらかといえば、少し頼りないタイプの主人公だったが、戦う王女や冷静な女魔法使い、皮肉屋の盗賊、明るくマイペースな妖精、という登場人物たちの中では、その頼りなさや平凡さが彼の魅力になっていて、このシリーズの人気の一端になっていた。

 そして、エピローグ。


 ──なんとか一命を取り留めたホープスは、樹海近くの村に運ばれ、そこで治療を受けていた。彼が宿屋のベッドで目を覚ますと、そばにマナカ王女が立っていた。

「あなたぐらいよ。そこまで大けがをしたのは、まったく頼りないんだから……でも、礼は言っておくわ……ありがとうね。ホープス」

 マナカ王女はそう言って顔を真っ赤にした。


「で、デレたぁーッ!」

 望は最後の一文を読み終えると、思わず叫んでいた。

+ + +

 風澤望はアンダーポイントである。
 最近、小説を読むようになった彼には、この日、もう一つ好きな小説のシリーズが増えた。


作:津上蒼詞