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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2014/03/28

+Cな日々 その41
(女王の仕事)

 織戸神那子は最重要能力者である。
 読書家で、いつも本を読んでいる織戸は、一緒に図書委員をしようとクラスメイトの西山千秋に誘われた。

 こうして織戸が入った図書委員には……『女王』がいた。

+ + +

 昼休みに図書室へとやってきた織戸と千秋は、次のWeb広報に載せるコラムについて話し合っていた。二人の机には、参考のために持ってきた本が十数冊ほど積み上げられていた。

「……それじゃ、織戸さんは夏目漱石や森鴎外の小説をコラムにしてみたら? この手の小説は面白いんだけど、なかなか読んでもらえないのよね。みんなに知ってもらうためにも広報で取り上げるべきだと思う」
「はい、ではそうしてみます」

 話し合いの末、織戸がコラムにするテーマが決まった。夏目漱石や森鴎外のような文豪と呼ばれている作家の小説は好きで読んでいた。彼女が執筆するコラムの題材に適しているだろう。

 話し合いが一段落したこともあり、織戸はふと図書室を見渡した。

 結波中央学園の図書室は広い。一般的な学校の図書室と比べて6倍ほどの面積があるだろう。それほど大きな施設であったが、大食堂や校内ストアがある多目的棟にあるため『図書館』ではなく『図書室』という名称がつかわれている。

 図書室を見渡した織戸は、窓際の席で本を読んでいる『エリー先輩』ことエリザベス・モーガンの姿を見つけた。
 ゆるやかなウェーブがかかった長い金髪に透き通るような白い肌。そして青い瞳。
 アメリカから留学してきたエリー先輩は、フランス人形を彷彿とさせるような美しい容姿をしていて、独特の浮き世離れした雰囲気を持っている。同じ結波中央学園の制服を着ているはずなのに、他の生徒とは、まったく別の服を着ているように見えてしまうほどだ。

「? ……織戸さん、エリー先輩のことを見ていたの?」

 織戸がエリー先輩を見つめていると、千秋も窓際のエリー先輩に視線を移した。

「図書室に来る度に、エリー先輩を見かけます」
「あー、エリー先輩なら授業中を除けば、ほとんどここにいるんじゃないかな? たぶん、それもエリー先輩の……『図書室の女王』の仕事なんだと思う」

 千秋はあえて、エリー先輩のことを『図書室の女王』と言い直した。

「千秋さんは、エリー先輩の仕事がどんなものなのかご存じなのですか?」

 形式上、エリー先輩は図書委員に在籍しているが、受付や書籍の整理などの仕事はまったくしていない。唯一、彼女が行っているのは広報に載せるコラムの執筆ぐらいだった。
 それは現在の図書委員長が、仕事をしなくてもよい、という約束でエリー先輩を図書委員に入れたからだと織戸は聞いている。

「エリー先輩は『探偵』らしいからね。やっぱり、事件を解決したりするのが仕事なんじゃない?」
「事件を解決? ……具体的にどのような事件を解決するのですか?」
「ごめん、あたしも図書委員に入って日が浅いから詳しくは知らないんだ……でも、家庭科実習室でプリンを作っているところや科学実験室で電磁波実験をしている白衣のエリー先輩とか、クラス棟の屋上でバスケットボールを転がしている姿を見たって人はいるよ」

「?」

 千秋の目撃談を聞いて、織戸は表情こそかえなかったが首をかしげた。エリー先輩の仕事とプリンの調理や電波実験、バスケットボールにどんな関係性があるのかわからなかった。

「あ、噂をすれば海堂先輩がきた」

 織戸が出入り口に目を向けると、図書委員長をしている海堂絵美里が図書室に入ってきたところだった。
 海堂先輩は、いつもニコニコしていて、穏和な話し方をする人物だったが、その時の彼女は緊張したような面持ちでエリー先輩の所へと早足で歩いていった。
 海堂先輩が目の前に立つと、エリー先輩は読んでいた本から目を離して相手を見つめた。
 そして口元に、ほのかな笑みを浮かべる。

 海堂先輩が自分の学生証をエリー先輩に差し出した。

「エリー……仕事よ」

 エリー先輩は静かに本を閉じると、差し出された学生証を受け取った。数秒間、液晶画面を見つめた後、海堂先輩に学生証を返す。

「どう? 解決できそう?」
「問題ないと思うわ……さあ、行きましょう」

 そんな短いやり取りの後、二人が図書室を出ていく。
 織戸はエリー先輩が見えなくなるまで、その後姿を見送った。

「時々、あんな風に海堂先輩と一緒にどこかに行くの。何か頼みごとをされた、って感じよね」
「それがエリー先輩の仕事ですか? 例の探偵の……」
「そう。エリー先輩がいつも図書室にいるのは、いつでも海堂先輩の要請に応えるためなんじゃないかな?」
「だから、いつも図書室にいることも仕事のうちなんですね?」
「そう言うこと、『図書室の女王』って名前はいつも図書室にいることが由来の一つだって話だよ」

 織戸は、もう一度、エリー先輩が出ていったドアへと視線を向けた。
 探偵、特別な仕事、『図書室の女王』という異名。それらは好奇心をくすぐるのに充分な言葉だ。

「もしかして織戸さんって、名探偵が出てくるようなミステリーが好きな人? だから探偵って言葉に反応しちゃったのかな?」

 千秋が冗談っぽく聞いてきた。

「はい、ミステリーは好きで良く読みます。そしてエリー先輩には、探偵という言葉を抜きにしても非常に興味があります……千秋さんは、興味ありませんか?」

 織戸のストレートな答えに、千秋は一瞬面食らったが、すぐに口元をつり上げ、黒縁メガネをキラリと光らせた。

「もちろん、すっごく興味ある!」

+ + +

 数日後。織戸は、見慣れない男子生徒がエリー先輩に会いに図書室へやってきたのを目撃した。
 二人がどんな話をしたのかはわからなかったが、エリー先輩が男子生徒に一冊の文庫本を手渡していたのは確認できた。
 二人がやり取りをしている間、男子生徒は何度もエリー先輩に頭を下げ、エリー先輩は、終始、微笑を浮かべながら話をしていた。

 そんな様子から、織戸は『謁見』のようだと思った。

+ + +

 織戸神那子は最重要能力者である。
 近頃の彼女は、『探偵』であり『女王』でもある『エリー先輩』ことエリザベス・モーガンに興味がある。


作:津上蒼詞