周りからは「品行方正」「文武両道」「執行部のエース」なんて言われるけど、他の人よりも少しだけ能力を上手く扱えるだけでしかないわ。
でも高校一年生の女子としては、ひとつだけ秘密を持っている。
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トーストとベーコンエッグ、プチトマトが乗ったサラダに海鮮はるさめスープ、そして野菜ジュース。
これが今日の朝食。特に手の込んだ料理ってわけじゃないけど、自分で作った朝食だ。
一方、テーブルの向かいには、一袋6個入りのロールパンと紙パックのカフェオレという朝食が並んでいる。
あたしの同居人、風澤望の朝食だ。
ある出来事がきっかけで、あたしはクラスメイトの望と二人暮らしをしている。その理由や経緯は、極限られた者にしか知らされていない極秘事項だ。
もっとも、彼の能力や生徒会の命令を抜きにしたって、同い年の男の子と一つ屋根の下で生活しているのは、あたしにとって極秘事項だわ。絶対に秘密にしなければならない。
それにしても望の朝食は相変わらずね。
昨日もスティックパンにコーヒーだったし、その前はコッペパンにジュースだったわ。
望って、あまり料理は得意じゃないみたいだけど……男の子って、みんな、こんな感じなのかな?
でも、こんな朝食ばかりだと体に悪いに決まっているわ。今度、ちゃんとした物を作ってあげようかしら?
そんなことを考えていると、望が朝食を食べ始める。
なぜかすごく眠そうだった。
ゆっくりとした動作でロールパンにチョコクリームを付け、それを口へ運ぶ。口をもぐもぐさせている間も頭を前後に揺らしていた。目なんか半分閉じているわ。
まるで遊び疲れて眠くなった夕食時の子供ね。眠気と戦いながらごはんを食べているなんて……ちょっとかわいいじゃない。
「今日はずいぶんと眠そうにしているわね」
あたしは望に話しかけた。
もちろん、内心を悟られないように平静を装う。
「昨日は遅くまで隆人に教えてもらったゲームをしてて……」
ゲームで夜更かしなんて、本当に子供なんだから。
「ゲームって、学生証にインストールするゲームアプリのこと?」
「うん、ゲームアプリ。『ミラージュキャラバン』っていうゲームなんだけど、すっごく面白いんだよ」
今まで眠そうな顔をしていたくせに、望は目を輝かせながら「バトルの方法が」とか「スコアが」と話始めた。
でも、よかったわ。目が覚めたみたいね。
「そうだ! このゲームを紹介するから、ひなたもやってみてよ」
「ありがとう。でも遠慮しておくわ。きっとそのゲームをする時間はないと思うから」
「……そう、残念。ひなたは忙しいもんね」
日々、あたしは執行部の業務で違反者の取り締まりをしている。特にあたしは、非番であっても現場に呼び出されるなんてことも多い。
一般的な学生よりは、忙しい生活を送っていると思う。
その上、学業もおろそかにはできない。
執行部に所属しているからといって、学業が免除されることはない。もしも学校の成績が生徒会の定める基準を下回れば、いかに優秀な人材でも執行部を辞めなければならなくなる。
学生の本分は学業。ヴァリエンティアにとってもそれは大前提なの。
「あのさ、ひなたっていつ勉強しているの?」
望が不思議そうな顔であたしを見つめてきた。
「夕食の後にしているわよ」
「それだけ? それであの成績なの?」
望の顔は、ますます不思議そうな表情になった。
あたしの成績は学年で10位以内に入る。
もちろん、『夕食後の予習と復習』だけで、この成績を維持していると言うつもりはないわ。
「あと、通学の途中とか何かの合間合間に勉強しているわ……学生証のアプリで」
学生証で使える教育系アプリはかなり充実している。
その種類は何百とあり、手軽に質の高い学習を行うことができる。
忙しい学生に無くてはならないものね。
執行部の学生達は使える学習アプリの情報を上手く共有することで、お互いに助け合っている。あたしも新しいアプリが使える、使えないという情報は、ほとんど彼らから仕入れている。
「え? そんなアプリがあるの?」
望が目を見開いていた。
「……あなた、学習アプリの存在を知らなかったの?」
今度は目をそらせる。
あなた、学生証に入れているアプリはゲームとかそんなのばかりなの?
「仕方ないわね。あたしが使っているアプリをいくつか紹介してあげるわ……ちゃんと使いなさいよ?」
「はい、よろしくお願いします」
まさかゲームアプリの話題から、あたしが望に学習アプリを紹介するとは思ってなかったわ。
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あたしの名前は一条ひなた。
風澤望には今後も手を焼くことになりそうだわ──まあ、嫌じゃないからいいけど。
作:津上蒼詞