さらに10歳で高校進学を果たすほどの秀才でありながら、その容姿は抜群にかわいい。
1年C組でもアイドル的な存在だ。
つまり、イリーナは特別な女の子なのである。
しかし──彼女はまだ10歳だった。
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12月も後半にさしかかり、もうすぐクリスマスがやってくるという頃。
「なあ、望。イリーナちゃんについて、ちょっと気になっていることがあるんだが」
鳴島隆人が風澤望に話しかけた。
「ど、どうしたの隆人?」
いつもふざけている彼と違い、今日の隆人は真剣な表情だった。
望は少しギクッとする。
(もしかして……)
アメリカから交換留学生としてやってきたイリーナには色々と秘密がある。
主に少女の能力に関することで、その中には望とイリーナの間に交わされた『大事な約束』も含まれている。
望は、そんなイリーナの秘密に隆人が気づいてしまったのではないかと思ったのだ。
「イリーナちゃんって、まだサンタクロースを信じているのか?」
が、そんな事はなかった。
「へ?」
望が素っ頓狂な声をあげる。
「一番仲が良いお前だったら知っているだろ? イリーナちゃんがサンタを信じているのか、それとも無慈悲な現実を知っているのか、ってところをさ」
「どうなんだろう? そんな話はした事がないからわからないなあ。ごめんね、隆人」
「マジかよ、わからないのかー」
「……でも、急にどうしてそんな事を聞くの?」
すると隆人は、そろそろクリスマスなのでプレゼントのことやサンタクロースの話題が出る前に、イリーナがサンタクロースを信じているのか、どうしても知りたいのだと説明した。
もしもイリーナがサンタクロースを信じていた場合、まかり間違っても隆人の言う『無慈悲な現実』を知らせるような愚かな真似はしたくないらしい。
そこで隆人はクラスでも一番仲が良く、イリーナに『お兄ちゃん』とまで呼ばれている望に聞くことにしたのだ。
「10歳って微妙だろ? すでに知っている可能性も高いけど、サンタがいると信じている可能性だってないわけじゃない!」
(……うーん、イリーナならクリスマスの存在を知った瞬間に全部わかっちゃうと思うんだけどなあ)
イリーナの秘密を知っている望にとっては、苦笑いを浮かべるしかない話だった。
「イリーナってああ見えて、意外にしっかりしているからそんなに気にしなくても大丈夫なんじゃない?」
「バカ言え! イリーナちゃんがサンタに夢見る幼女ではない、なんて保証はないだろ? 今年のクリスマスが無慈悲な現実を知ることになった残酷なクリスマスになるかもしれないんだぞ。これはデリケート且つ重大な問題なんだ!」」
「大げさだなあ……」
と、ひとりのクラスメイトが話しかけてきた。
「確かに、これはデリケートな問題だな」
そして、また一人また一人とクラスメイトが『イリーナちゃんはサンタクロースを信じているのか?』と言う話題に加わっていく。
「知っている可能性は高いと思うよ、ネットで検索すればすぐわかることだし」
「でもイリーナちゃんがネット検索しているところって、あんまり見たことがないぜ」
「確かに、どうなんだろう?」
「そうだ。みんなはいくつまでサンタを信じてた?」
「アタシは小2ぐらい」
「俺もだいたい、そのくらいかな」
「……私は小3まで。知った時は超ショックだった」
「イリーナちゃんって10歳だよな? 普通なら小4かあ」
「こうしてみると10歳は、かなり微妙だな」
「うーん、難しい」
「どうなんだろうね?」
クラスでもアイドル的な存在であるイリーナの話題だからだろう。
いつの間にか、教室にいたほとんどのクラスメイトが『イリーナちゃんはサンタクロースを信じているのか?』という議題を話し合っていた。
(あはははは……本当に気にしなくてもいいのに。でもそれだけイリーナがクラスの人気者で、C組のみんなが良いヤツだってことなんだろうな)
望がなんだかほっこりしていると、イリーナ本人が教室にやってきた。
少女は望の前まで来ると、集まったクラスメイトたちを見て不思議そうな顔をする。
「お兄ちゃん、みんなで何の話をしていたの?」
その瞬間、教室全体に緊張が走る。
「えーっとね……そろそろクリスマスだね、って話をしていたんだよ」
「ふーん、そうなんだあ」
一度だけ、イリーナが周囲を見渡す。
どことなく引き吊った表情のクラスメイトたち。
自分の様子を伺うような彼らの視線。
あたりに漂う妙な緊張感。
そして、もうすぐクリスマス──
イリーナは満面の笑みを浮かべてこう言った。
「イリーナ、サンタさんからどんなプレゼントもらえるのか楽しみ!」
(うわっ、イリーナが空気読んだ! 今のは、間違いなく空気を読んでのセリフだ!)
隆人や他のクラスメイトたちが「よっしゃあ、これで俺たちのスタンスが決まったぜ! 任せろ!」と思っている中、望だけが「この場で一番大人なのは、イリーナだね」と思った。
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イリーナ・アンダーソンは第二世代能力者である。
少女が過ごすことになる12月24日と25日は、優しいウソに満ち溢れたクリスマスになりそうだった。
作:津上蒼詞