また、登場するキャラクターたちの年齢や関係性、世界設定も『プラスチャイルド』とは違っています。
* 登場人物の関係性
風澤望 → 風澤望(父)
一条ひなた → 風澤ひなた(母)
織戸神那子 → 風澤神那子(姉)
イリーナ・アンダーソン → 風澤伊里奈(妹)
注:作中では『イリーナ』と表記しています。
+ + +
風澤望は妻と二人の娘を持つお父さんである。
大学を卒業後、それなりの会社に就職し、二十代で結婚をして家庭を築いた。
そんなどこにでもありそうな家庭を守る、どこにでもいそうなお父さんだ。
+ + +
2015年1月1日の午後。
年があけてから時間が経つと、浮き足だったような大晦日の賑わいは落ち着き、のんびりとした正月の雰囲気が世間を包み込むようになる。
風澤家のリビングもそんな正月特有のまったりした雰囲気に包まれていた。
「あなた、イリーナを見なかった? さっきから見当たらないのよ」
妻のひなたが、こたつでのんびりテレビを見ていた望に声をかけてきた。
「イリーナならここにいるよ」
望がこたつ布団をめくると、次女のイリーナが望の隣で寝息をたてていた。
「イリーナったら、こんなところで寝ていたら風邪をひくわよ」
ひなたがイリーナを揺り起こす。
「イリーナ、寝るなら自分の部屋で寝なさい」
「……いやあ。イリーナ、眠くない」
寝ぼけ眼のイリーナが突然、望に抱きついてきた。
イリーナは10歳になるが、いまだに父親が大好きという相当なお父さんっ子だ。
そのため、ことあるごとに望に抱きついてくる。イリーナのストレートな愛情表現は、父である望にとってうれしい反面、少し心配になることがあった。
眠そうな顔をしながら「眠くない」といって抱きついてきたのも、こうして午後の一時に望が家にいる機会を逃したくないとの思いからだ。
しかし、眠気には勝てなかったのだろう。
しばらくすると、望に抱きついた体勢のまま寝息をたてはじめた。
「寝ちゃったみたいだね」
「仕方のない子ね」
ひなたはいったんリビングを出ると、毛布を持って戻ってきた。
そして眠ってしまったイリーナに毛布をかける。
「あなた、しばらく寝かせておいてあげて」
「わかった。そうするよ」
ひなたがイリーナの寝顔をのぞき込み、優しく笑った。
望もその笑顔につられるように笑みを浮かべた。
こうして、まったりとした時間がすぎていくかに思えたが──。
(えーっと、これはどういう状況なの?)
イリーナに抱きつかれたまま正月番組を見ていると、いつの間にか長女の神那子が隣に座り、自分にもたれ掛かっているのに気づいた。
「神那子?」
「……なに?」
「これは、どういう……」
「別に……意味とかはないけど」
「そう、なんだ……」
「そうです」
望が隣の神那子の様子を伺うと、娘は手にした文庫本を読んでいた。
こちらにもたれ掛かっているが、壁か何かとしか思っていないかのようだ。望を気にする素振りもない。
長女の神那子は思春期まっさかりの14歳だ。
昔はイリーナのように望にべったりだった時期もあったが、最近はまともに話もしてくれなくなった。
(あんなに可愛かった神那子が、今じゃ無愛想を通り越して無表情だ。最後に神那子が笑ったところをみたのはどのくらい前だっただろう……という関係性だったのに!)
なぜか、今、望の隣に座って彼に体を預けている。
もちろん「風澤家が狭すぎて、そこに座るしかなかったから」という訳ではない。
リビングにはイスやソファーもあるし、こたつも望の隣以外も座ることができた。
それなのに、わざわざ隣に座ってもたれ掛かってきたのだ。
長女の行動に望は混乱してしまう。
(わからない。娘の気持ちがわからない!)
ついに思考停止にまでおちいった。
そんな父と娘の姿を少し離れたところで見ていた妻が、呆れたような表情を浮かべる。
ひなたは神那子が無愛想なのは父親の望の前だけで、反抗期だというのはそれを知らない望の思い込みだと知っていた。
神那子の態度は、思春期に入ったので素直に甘えられなくなったからだ。
「相変わらず鈍感なんだから……あなたは自分が思っている以上に幸せ者なのよ」
そんな妻の言葉は、思考停止中の望には届かなかった。
+ + +
風澤望は妻と二人の娘を持つお父さんである。
どこにでもある家庭を守っている、どこにでもいる『幸せなお父さん』だ。
作:津上蒼詞