2015/03/06

tips064
MANGROVE

Ver 17.03.12アップデートに関する告知

 2019年にYukariOS用総合音楽制作アプリ(MAW)として公開した『MANGROVE(マングローブ)』は、ユーザーの音楽制作を刺激するために、毎年様々なアップデートを重ねて参りました。

 積極的なミュージックジェネレーター機能の活用と、視覚的なわかりやすさを追求したデバイス。直感的な操作と編集を可能とした音楽制作エンジン。

 またアップデートの他にもMANGROVEを取り巻く環境を弊社は変化させてきました。

 2023年には、様々なメーカーが個別に作成していたYukariOS用のモバイルシンセサイザーやヴィジュアルシンセサイザー、ドラムマシン、リズムマシン、ミキシング、ギターアンプ&エフェクター、ミュージックジェネレーター(MG)、レコーディング、波形編集などのアプリと連動を計るために、内部システムを公開。同時にマングローブ・モバイル・リンクシステム(MML)を提唱しました。

 現在では、ほとんどのYukariOS用音楽制作系アプリがMANGROVE内でリアルタイムに使用、編集できるようになっています。

 さらに2025年には、アルピニア内に多数のユーザーがリアルタイムで音楽編集ができる共同音楽制作スペース『MANGAL(マンガル)』を立ち上げ、学生証やYukariOSデバイスによる音楽制作に刺激と活気を与えました。


MANGROBE + MANGAL


 このふたつを使用するのがYukariOS用総合音楽制作アプリ(MAW)のスタンダードになっています。

+ + +

 この度、多くの皆様にご支持をいただき、業界最大手の共同音楽制作スペースとなったMANGALと、結波市で開催される音楽イベント、サマー・フェスがコラボをすることになりました。

 例年、サマー・フェスは多くのプロ、セミプロのミュージシャンを招待して大盛況となっていましたが、今年はさらにその規模を拡大することになりました。

 参加するアーティストも高度制令都市在住の学生ミュージシャンをむかえます。サイトー7やKazma Y、みゆみゆ、などすでに有名な学生ミュージシャンの参加が決定。その他、プロとしてデビューしていないかったり、まだ知名度の高くない学生ミュージシャンも多数、招待することが決定しました。

 そこで、サマー・フェスに参加する10組の学生ミュージシャン枠をMANGALから選ぶことになりました!

 これに伴い、MANGALは先日のVer 17.03.12アップデートにサマー・フェス参加ミュージシャンをユーザーが選ぶ機能を実装しました。

 詳しくは、MANGALの詳細ページにて。

 ユーザーの皆さん、ぜひこの機会にサマー・フェスへ挑戦してみてはいかがですか?
 そして貴方が応援しているミュージシャンやアーティストをサマー・フェスに出演させましょう!


──MANGROVE / MANGALオフィシャルサイトより抜粋

作:昌和ロビンソン

2015/02/14

+Cな日々 その65
(バレンタイン☆すぺしゃるくっきんぐ)

 こんにちは、イリーナだよ!
 今日は2月14日のバレンタインデー。
 だから、だぁい好きなお兄ちゃんのために、チョコレートを作ることにしたの!

 イリーナ、お菓子つくるのははじめてなんだけど……でも、だいじょうぶ!
 すっごく上手なひとの心の中をほんのちょっぴりだけ覗いて、おいしいチョコレートの作り方を覚えちゃった!
 えへへ、お兄ちゃん、喜んでくれるといいなぁ……。

 (…………。)

「きゃあっ!」「えっ!」「あ、あつっ!」(どんがらがっしゃーん)

(なんだかしょんぼりしているイリーナ。手にはたくさんのばんそうこうが巻かれ、ぷくぷくのほっぺたにはチョコが付いている)

 はぁ……どうしてイリーナ、まだこどもなんだろう。
 手もちっちゃいし、身体もちっちゃいし……大人になれば、もっと上手にキッチンに立てるのかなぁ。

 せめてひなたみたいに早く動ければ、あんなふうにボウルを落とさなかったのに。
 神那子みたいな力があれば、世界でいちばん美味しいチョコを作り出せたのに……。

「あれ、イリーナ。なんだか悲しそうだけど、なにかあったの?」

 お、お兄ちゃん!?
 あ、そういえばイリーナ、完成したチョコをあげようと思って、お兄ちゃんのこと……!

 チョコレート、上手く作れなかったし……ど、どうしよう!!

「そうだ、今日はイリーナにおみやげがあるんだよ。はい、チョコレート。
 すごく美味しいお店があるからって、ひなたに無理矢理連れて行かれたんだよね。
 なんだかみんな目が血走ってて、すごく居心地が悪いところだったけど、チョコレートは本当に美味しかったから。イリーナと一緒に食べようと思ったんだけど……もしかして、もう食べちゃった?」

 え?

「だってほら、頬に……」

 ちゅっ、って。一瞬、なにが起きたのかわからなかったけど──。
 かああああって。ほっぺたが熱くて、真っ赤になる。

「ん、甘い。やっぱりチョコレートは美味しいね」

 お、お兄ちゃん! 「ん?」じゃなくて、もう!!
 こういうことしちゃだめでしょ! 今はたまたま、相手がイリーナだったからよかったけど……。
 ……って、イリーナ以外にはしないよ、って言っても、ダメ! ダメなものはダメ!

 まったくもう……でも、えへへ。
 しょうがないなぁ、って思うけど──イリーナは、お兄ちゃんのこと、だぁいすき、だよっ!

+ + +

「ところで……これ、お兄ちゃんが買った……わけじゃないよね?」
「うん、ひなたからもらったんだ。一緒にお店に行ってくれたお礼、とかで」

 上品で、なおかつ可憐な、いかにも高級そうなチョコレートの箱を無造作に開け、精緻な芸術品にも似たトリュフの一粒を平然と差し出すその姿に。

「もうっ! これだから、お兄ちゃんは!!」

 ──美味しいチョコレートもどこへやら。
 しっかりものの妹による盛大なお説教が始まったのは、想像に難くない展開だった。


作:ありあけ

+Cな日々 その64
(一番合理的な選択)

 織戸神那子は最重要能力者である。
 最重要能力者とは国内で最も希少価値が高い能力を持つヴァリエンティアのことで、その能力は国家が保護、管理すべきだとされている。

 そんな最重要能力者である織戸神那子本人は、気になる男の子がいるような高校一年生の女の子だ。

 そして彼女の専属カウンセラーであり、超能力研究施設『セントラル』の所長でもある桐島麗子は、親代わりと言っても過言ではないほど織戸と親密な関係を持っていた。

+ + +

 その日、仕事を終えてひと段落した桐島は、織戸が洋菓子の本を読んでいることに気づいた。

(お菓子作りの本?)

 桐島は若くしてセントラルの所長に上り詰めるほど人物だ。
 当然、頭の回転は他の人よりも早い。
 その高い知能をフルに発揮して、以下の事象──

 明日はバレンタインデーである。
 風澤望というクラスメイトの存在。
 お菓子づくりの本。
 あと、神那子はいつも通り無表情だけど、なんだか楽しそうにしている。そんな雰囲気を感じる。ワタシにはわかるの!

 ──から、ある予測を導き出す。

(神那子は、あのクソ餓鬼に手作りのバレンタインのチョコをあげるつもりだ!)

 風澤望という少年は、去年の4月に織戸と出会うと急速に彼女と仲良くなった人物だ。
 あげくの果てに、桐島の元へ織戸を思って直談判に来るという暴挙を行った輩でもある。

 織戸は望をかなり信頼しているようだが、桐島にとっては気に入らない人物だ。
 主に、自分から神那子を奪うヤツ的な意味で。

 桐島は思わず渋い顔をした。
 幸い、料理本を読むのに集中している織戸は、側にいる桐島がそんな顔をしていることに気づかない。

(なんとかして阻止したい……)

 織戸が望に手作りチョコを渡すのを阻止するなど、人並み外れた知能を持つ桐島にかかれば数分もあれば完璧な作戦を立てられる。
 さらに、セントラルの所長という立場を利用すれば、十数名の人間を動かして大規模な作戦を実行することすらできるだろう。

(まずはあーして、次にこーして……)

 織戸は側にいるこの人物が、そんな作戦を練っているなど想像もしていないだろう。
 相変わらず無表情ではあったが洋菓子の本を見つめるその瞳は生き生きとして見えた。

(よし、これなら問題ないないはずだ……)

 その時、桐島の携帯端末がメールの着信を知らせる。
 メールは秘書の矢剣圭吾からだった。


 ──桐島所長へ

 非常に急を要する連絡です。

 織戸さんがチョコレートを作るための材料や調理用具を購入したとの情報を入手しました。
 これは間違いなく、明日のバレンタインデーに手作りチョコを風澤望に渡すためだと思います。

 この緊急事態に対して何かしらの対処が必要です。
 いかなることがあろうとも、あの風澤望に神那子が手作りチョコを渡すなどあってはならな……

 ──矢剣圭吾


 矢剣圭吾という人物は見た目こそ20代のメガネイケメンだが、織戸のことが絡むと、とたんに変貌してしまう。
 血の繋がりこそないが、その様子は『シスコンのお兄ちゃん』そのものだった。

 矢剣のメールはかなりの文字数があった。
 桐島は途中で読むのを止め、短い返信をする。


 ──矢剣へ

 いい加減にしろ、シスコン。

 ──桐島


 人間とは、自分よりも興奮している相手を見ると冷静になる。
 それまで取り憑かれたようにあれこれ作戦を練っていた桐島も矢剣のメールを読んで冷静になった。

(ワタシとしたことが、どうかしていたな……さて、冷静になったところで一番合理的な選択は、アレだろうな)

 頭をリセットさせた桐島は、さっそく自分が導き出した一番合理的な織戸との接し方を実行に移す。

「そう言えば、明日はバレンタインね。神那子は何を作るの?」
「……できれば、これを作りたいと思っています」

 織戸が洋菓子の本を開いて見せる。
 そこに載っていたのは、少し難易度の高めなチョコレート菓子だった。

「ガトーショコラ? 初心者には少し難易度が高いかもしれないわね」
「やはり、もう少し簡単な物にした方がいいでしょうか?」

 織戸が残念そうに視線を落とす。

「大丈夫よ。ワタシも手伝ってあげるから」
「レイが一緒に作ってくれるんですか? そうして頂けると助かりますが、でも……」
「気にする必要はないわ。ワタシも研究所の男連中に配る分を作らないといけないからね。そのついでよ」
「それなら……ぜひ、お願いします」

 織戸が深々と頭を下げる。

「チョコレート菓子を作るのは初めてなので、本当は少し不安だったんです。でもレイが手伝ってくれるなら、もう安心です」

 表情にこそ表れていないが、顔を上げた織戸は嬉しそうにしていた。

 こうして桐島は『阻止するのではなく、逆に一緒にお菓子を作る』という選択によって、織戸からの強い信頼を勝ち取ることができた。

+ + +

 織戸神那子は最重要能力者である。
 そして桐島麗子は織戸の専属カウンセラーだ。
 二人は強い信頼関係で結びついている。

 あと、秘書の矢剣圭吾は、この翌日「そんなことをするつもりだったんですか? 酷いです」とのメールを織戸からもらい、数日寝込んだ。


作:津上蒼詞