ひょんなことから、イリーナ・アンダーソンの『お兄ちゃん』になった。
「お兄ちゃん、見て見て」
織戸神那子と話をしていた望のところに、イリーナが駆け寄ってきた。
そして全身が見えるようにくるりと一回転した。
「イリーナ、その格好、どうしたの?」
「ドレス、ですか?」
望と織戸がイリーナを見て驚いた。
少女は制服ではなく、豪華なドレスを着ていたのだ。
「かわいいでしょう? クラスのみんなが持ってきたの。どう、お兄ちゃん、似合う?」
イリーナに、そのドレスはよく似合っていた。
着る人を選ぶ服だったが、上手に着こなしている。
「すごく似合ってる。お人形さんみたいだ」
「ねえ、神那子は? かわいい?」
「はい。お化粧をすればお姫様ですね」
二人に褒められ、イリーナは嬉しそうに笑った。
すると、少女の周りに数人の女子生徒がやってきた。
彼女たちは、興奮した様子で各自が手にした服……というよりも、衣装を見せる。
「イリーナちゃん、もう、充分、風澤くんには見せたよねッ」
「次があるから、ね。ほら、これもかわいいよ」
「着替えしましょう、早くしないと昼休みがおわってしまう」
彼女たちが、衣装を差し出す。
さらにレースが過剰なドレスやメイド服、体操着、パンク系などが並んだ。
中には、幼稚園の制服まである。
「イリーナ、このお洋服、もっと着ていたのに」
ちょっとすねたように口をとがらせる。
女子生徒たちは、一瞬たじろいだがすぐに元の勢いを取り戻した。
「でも、こっちの方が」
「ね? これも似合うよ」
さらに勢いは増していく。
ついに彼女たちの矛先は、イリーナ以外にも向けられてしまった。
「織戸さんッ」
その矛先は、近くにいた最重要能力者へと向けられた。
「は、はい」
「織戸さんって、スタイル良いし、顔も良いから、こういう服、似合うと思うの」
「……はあ。ですがサイズが合いませんね」
「ああ、そうか残念ね」
女子生徒たちが、持参した服はイリーナに着せるために持ってきた物だ。
織戸が着るには小さすぎる。
が、彼女たちは諦めなかった。
「それじゃあ、コレをつけてみてよ」
差し出したのはヘッドドレス。
メイドさんが、頭に乗せているアレだ。
「ですが……」
「大丈夫、大丈夫。ほら、つけてあげる」
「あの、あ……」
あっと言う間に、織戸の頭にヘッドドレスが装着された。
ワッと周囲から、声が挙がる。
「やっぱり似合うッ。想像以上に似合ってるよ、織戸さん」
「そう、ですか? 似合っているんですか?」
織戸が、望に視線をおくる。
その頬が、わずかに赤くなっていた。
「やはり、おかしいですよね?」
「ぜんぜん、僕もかわいいと思うよ」
「か、かわ……ありがとうございます」
織戸が下を向いた。
「あなた達、いったい何を騒いでいるのッ!!」
騒ぎを聞きつけて、一条ひなたがやってきた。
「……って、お、織戸さん。どうしちゃったの?」
ひなたが、ヘッドドレスをつけた織戸を見てギョッとする。
「これは、その……」
織戸が口ごもる。
代わってイリーナが答えた。
「みんなが似合うからつけて、って頼んだの。でも似合うでしょ? お兄ちゃんもかわいいって」
「望も?」
「そうだよ……ね? お兄ちゃん」
「うん、そうだね」
ひなたが織戸の姿と望の顔を交互に見た。
「こういうのが好きなんだ」
と、つぶやく。
そんなひなたを、女子生徒たちが取り囲んだ。
「一条さんもどう?」
「これとか、これとか……思い切ってこれとか?」
「それはちょっと……」
「一条さんってかなりイイ線いってるからイケるんじゃない?」
「そうそう、一条さんならきっとかわいいよ」
「……そうかな?」
「そうだよ、きっと似合うよ」
「ね? つけてみよう」
「……じゃあ、少しだけ」
「よし、決まりね……はい」
ひなたが、望たちの前にやってきた。
「どう、かな? 変じゃない?」
顔を真っ赤にしたひなたがたずねる。
その頭には、猫耳が生えていた。
「……」
望やイリーナ、織戸が、ひなたを呆然と見つめる。
「なッ、なによ、その顔ッ!!」
+ + +
風澤望はアンダーポイントである。
イリーナ・アンダーソンと織戸神那子。
そして、一条ひなたの三人の美少女と特別な間柄だった。
作:津上蒼詞