アンダーポイントとは研究の価値もない微弱な超能力しかない能力の総称である。
つまり風澤望は役立たずなのである。
さらに頭も悪いときている。成績も落ちこぼれだ。
そんな望がひょんなことから最重要能力者・織戸神那子とメル友になった。
+ + +
今日は彼女と直接会って話をしている。場所は学園の近くにある喫茶店だ。
「織戸さん。この本、すごく面白かったよ」
望が一冊の本を鞄から取り出す。
その本がよほど気に入ったのだろう。満面の笑みを浮かべている。
彼は読書をしない人間だったが、彼女と出会ってから少しづつ本を読むようになった。自分でも驚きだったが、読書家の織戸と一緒にいると自然と読んでみようと思た。
「望さんが楽しんでいただけたのなら幸いです」
「織戸さんが薦めてくれた本だからね」
無邪気に笑う望に対して、織戸はほとんど表情を出さない。
そういうタイプの女の子なのだ。
それでも彼女が美少女であることは揺るがない。
透き通るような肌に茶色いボブ、シャープな顔の輪郭に切れ長の眉、長いまつげに一重瞼、それらが小さな顔に収まっている。誰もが彼女を美少女だと答えるだろう。
いつも無表情で、少し近寄りがたいだが、クラスでも密かに人気がある女子だ。
「この本ってシリーズになってるの?」
望が身を乗り出しながらたずねる。
「はい、かなりの巻数が出ていたはずです」
「そうかあ、じゃあ他の巻も読みたいな」
人なつっこい笑顔を彼女にむける。
織戸は少し話しかけづらい雰囲気があるが、望は全く気にしていないようだ。
彼の深く考えない性格が良い方向に働いているのだろう。
と、笑みをむけられた織戸が彼から目をそらすと、落ち尽きなく視線を動かした。
「それなら今度、同じシリーズの本を持ってきます」
何かに動揺したようだったが、望は織戸の変化に気づかない。
「織戸さんは何を読んでいるの?」
「今読んでる本は……これです」
織戸が一冊の本を取り出す。望はそれを見て本の題名を口にする。
「『太陽の笑みと夏草の恋文』か……へえ、どんな話なの?」
「周囲から誤解されがちな少女が、一人の少年と出会って恋に落ちるという話です。少女は自分の気持ちをちゃんと伝えられない性格をしていて、話しかけてきた少年に酷いことを言ってしまったりするんです。それでも少年は嫌な顔一つしないで少女と向き合おうとするんです。そんな彼と接しているうちに少女も少しづつ自分の気持ちを伝えられるようになっていって……二人は結ばれる」
本の説明をする織戸は、表情こそ変わらないものの、どこか生き生きとしていた。
「それって面白いの?」
「面白いというより、二人の恋愛に憧れるというか……い、いや。別にそういう意味ではッ」
突然、織戸の声が跳ね上がった。
さすがの望もその変化には気づく。
「え? どうしたの?」
すると彼女が両手を尽きだして、待ったのポーズをする。
いつも冷静な織戸とは思えない、取り乱したような仕草だ。
「深い意味はありません。今の発言はそういう意味ではないんです。本当です。気にしないでください。忘れてくださしゃい、あ、ください」
カミカミだ。望も、こんな彼女を見たのは久しぶりだった。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です」
「織戸さんがそういうなら気にしないけど……」
「そうしてください」
「わかった。そうする」
織戸が胸をなで下ろす。こころなしか彼女の頬が赤くなっていた。
「ぜんぜん、話が変わるんだけどさ。僕の本と織戸さんの本って、なんか雰囲気が違うよね」
「雰囲気、ですか?」
「大きさとか、表紙の感じとか、なんか全体的に……」
望が織戸の本と自分の本を並べる。
彼の言う通り、ふたつの本は装丁からなにから違っている。
一方は表紙絵があり、もう一方は題名と作者名だけだ。本を開くと文字の大きさも違った。
「……え、ええ。そうですね」
織戸はその違いを知っているようだった。
「織戸さん、どうしてなのかわかる?」
「それは……」
彼女が口ごもる。
さらに視線を泳がせたと思ったら、急に俯いてしまう。
そして俯いたまま、ちらちらと上目遣いで望の顔を盗み見る。
まるで小動物のような仕草だった。小さな子猫に似ている。
(織戸さん、どうしたんだろう?)
望が心配そうに相手を見つめる。
「「……」」
織戸が意を決したように顔を上げた。
「望さんの本が……小学校低学年向けの児童書だからです」
「え? 小学校、低学年向け?」
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風澤望はアンダーポイントである。
最重要能力者・織戸神那子とはメル友であり、ちょっと微妙な関係だった。
作:津上蒼詞