ある出来事をきっかけに風澤望とメル友になった。
+ + +
今日は、望と一緒に書店へと買い物にきていた。
「参考書……いろいろな種類が出ているんですね」
「本当だ。どれがいいんだろう?」
織戸が望を連れて書店へとやってきた理由は、数日後に迫った中間テストのためだ。
織戸は、数ヶ月前に結波中央学園へ入学するまで、学校に通ったことがない。それまでは、専属の家庭教師に勉強を教えてもらっていた。
そのため『中間テスト』というものを経験したことがなかった。参考書を買いにきたのは、初めて経験する『中間テスト』に対策をするためだ。
もっとも織戸の成績は、テスト前に血相をかえて参考書を買うような低いレベルではない。となりで本棚を見つめて首をかしげているアンダーポイントは、頭のできが違うのだ。
「うーん、どの本も、なにが違うのかわからない。これと、これ……同じ本だよね?」
「望さん、それは『現代文』の参考書で、これは『古文』の参考書です」
「え? そうなの? でも……あれ、なにが違うの?」
望は手にした参考書を見つめると、考え込んでしまった。
そんな彼をよそに、織戸は本棚から数冊を手に取るとパラパラと目を通していく。一冊につき、1、2分しか時間をかけず、次々に別の参考書へと目を通していった。
「望さん、この本がよさそうですよ」
織戸がそう言って望に参考書を差し出したとき、まだ彼は『現代文』と『古文』を手にしていた。
「もう選んだの?」
望は織戸が選んだ参考書を手に取ると、本を開いて内容を確認する。が、すぐに難しい顔になった。
「えーっと、この本は……どこが、その……いいの?」
望には、織戸がその参考書を選んだ理由がわからなかったらしい。
「参考書を選ぶのは、私も初めてなので、なにを基準にすればいいのか知らないのですが、その参考書は学生証のアプリと連動させることで、暗記や聞き取りなどを スムーズに学習できるようです。他にも多数のアプリと連動させられるようですね。学習のスケジュール管理やWeb辞書とのリンクなどです。同じような本もいくつかありましたが、文章が最も簡潔にわかりやすく書かれていると感じたのは、その参考書だったので……あ」
そこで織戸が説明を中断した。
望がポカンとした顔で自分を見つめているのに気づいたからだ。
「すみません……私の説明、偉そうに聞こえましたか?」
織戸がうつむきながらたずねた。
すると、望は慌てたように否定する。
「え、いや。違う、違う……ちょっと読んだだけで、そこまでわかっちゃうなんてすごいなあ、って関心していたんだよ。やっぱり、本のことなら織戸さんに頼むのが一番だね」
そう言って、望は笑みを浮かべた。
「わ、私は、ぜんぜんっ……もっと本について詳しい方はたくさんいます。知り合いにも、何倍も本に詳しくて、ずっと頭のいい方がいます。私なんか……」
織戸の顔は、あいかわらず無表情だが、その頬は、わずかに赤くなっていた。
「それじゃあ、織戸さんが選んでくれた参考書にするよ」
望は織戸の言葉をさえぎると、彼女に満面の笑みを向けた。
「そ、そうですか……では、これと、これもですね」
織戸は本棚から数冊の参考書を取ると、それを望に手渡した。
「え?」
「別の教科の参考書です。これで全教科分ですね」
望の顔が引きつる。彼は参考書の値段を見ると、次に学生証の電子マネーの残高を確認した。
望がため息をつく。
「どうしたんですか?」
「参考書って、こんなに……高いんだね。予算オーバーだよ」
「お金が足りないんですか?」
「……うん」
織戸の目の前で、望が小さく背中を丸める。
「それなら、二人で半分ずつ購入するというのはどうでしょうか?」
「半分ずつ?」
「はい、そして休憩時間や放課後の空いた時間に参考書を見せ合えば、一人で全部を買う必要はないと思います……だめ、でしょうか?」
織戸が上目遣いで望にたずねた。
「そうしてもらえると助かる。でも、織戸さんはそれでいいの?」
「もちろんです。それで問題ありません」
そう応えると、織戸は望の手から参考書を半分受け取った。
「わかった。じゃあ、レジに行こうか」
「はい」
その後、参考書を半分ずつ買った二人は、明日の放課後に勉強会をする約束をした。
帰宅途中、織戸の学生証にレイからメールがあった。
──神那子へ
参考書を買いに行く、って言ってたけど……神那子の成績は、全国テストでトップクラスに入っていたから必要ないと思うんだけど。
──レイ
そのメールに対して、織戸はこう返信した。
──レイへ
学校のテストは、今まで経験したことがないので、念のために購入しました。必要かどうかはわかりません。
──神那子
PS 明日の放課後、望さんと勉強会を行うことになりました。このことをレイから矢剣さんに話してもらえますか?
+ + +
織戸神那子は最重要能力者である。
本を読むことが好きだが、最近、テスト勉強も好きになった。
作:津上蒼詞