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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2013/06/14

+Cな日々 その21
(Iさんについて)

 2029年6月14日

 今日は、ちょっとした事件に巻き込まれた。
 モブたる私がまさかの事態である。
 なんでそうなったのかは不思議だけど、事実は事実。
 それは、クラスメートのKさんとのスイーツ部(非公認)の活動中に起こった。

「Hちゃんはすごい」

 そうKさんに聞かされること、数ヵ月。
 いい加減、耳タコです。
 そう思いながらも言葉にはせず、『蔓茘枝(つるれいし)』の名物である巨大パフェ『GOYAGOYAぱふぇ(もりもり)』を攻略すべく、私はもくもくと口を動かした。にがあまっ。
 放課後にカフェなどを一緒する仲のKさんだが、特別親しいかというとそうでもない。
 そんなKさんと話すことと言えば(話すのはもっぱら彼女だが)、食べ物のことか、クラスのことか、彼女の中学時代からの友人のことか、ぐらいであった。

 Hちゃん、改めIさんは学園の有名人。
 美少女という言葉が似合う容姿に、文武両道で品行方正という中身。
 まさに非の打ち所がない人物で、さらに『執行部のエース』であるとも聞いた。
 ……あなたはマンガのキャラですか、と突っ込みたいが、実在するのだから世の中は怖い。
 そんな彼女は、ある意味でとても目立っていた。
 学園内でIさんが歩いていると自然と空気が変わり、気がつけば視線がそちらに向いてしまう。
 彼女はいつも背筋を伸ばし、颯爽と歩いていた。
 けれど、それとは逆に周囲はざわついている。
 それを見かける度に、私はなんだか不思議な気持ちになった。

「それでね。Hちゃんがね」

 よく話がつきないなと感心してしまうぐらい、KさんのIさん語りはいつまでも続く。
 生徒会の仕事は守秘義務とか色々とあるのか、Kさんの話は要領を得ないことが多かった。
 ただ、ほとんどの締め言葉が『Hちゃんはすごい』で終わる。
 ……ごめん。
 私には情報が少なすぎて、どこがどうすごいのかさっぱりわからないよ。
 二人での巨大パフェ攻略も山を越え、ラストスパートというところで、ビービーと音が鳴った。
 Kさんはすぐに鞄から学生証を取り出す。
 どうやら、緊急事態のようだ。

「残りは、私がおいしく頂いておきますので」
「ごめんね!」

 のんきにしていられたのは、巨大パフェがほぼ跡形もなくなった辺りまで。
 最後の一口を運ぼうとした際、無惨にも私の手からスプーンは消えた。
 なんだかよくわからないが、私はどうやら人質らしい。
 ……おい、どうしてこうなった。

「その子を離しなさい!」

 凛とした声が響く。
 声の主は、件のIさん。
 こうして真っ正面からIさんを見るのは、初めてかもしれない。
 いやだ、何この美少女。
 感心している私の背後で、犯人らしき人物が何かを叫んでいる。

「……はあ。まったく仕方ないわね。 ――『ゲット・レディ?』」

 応対するIさんは終始冷静で、どこか余裕さえも感じられた。
 Kさんによる刷り込みかもしれないが、『Hちゃんはすごい』のなら、不安がることはない。
 この人に任せておけば大丈夫。素直に思えてしまったのだ。
 思い出したのは、いつもの揺るぎのない背中。
 その背中が、目の前にある。
 そう、私を捕らえていた人物が吹っ飛んだのだ。
 何を言っているんだと思うかもしれないけど、でもそれが現実。

「邪魔よ。どいてなさい」

 言われたと思ったら、今度は私が吹っ飛ばされた。
 足蹴にされなかっただけましだが、視界が回る。
 ……あれ、どういうこと?

「うげっ」

 何か下から変な声がしたが、気にする余裕はない。
 彼女の動きは早すぎて、私の目では追えなかった。
 けれど、そんなことは関係なく、私は彼女から目が離せない。
 だって、『Hちゃんはすごい』を目の当たりにしているんだもん!


 犯人も拘束され、事態が落ち着いた辺りで声をかけられた。

「あの、」
「あ、はい」

 聞こえてきた方向に顔を向けると、そこには男の子がいた。
 ……どうやら、私は男の子を下敷きにしていたらしい。
 慌てて体を退けると、彼に頭を下げた。

「重くてすみません。あと、あなたのお陰で怪我をしませんでした。ありがとうございます」
「いや、そんな。重さよりも、柔らかさが気になって」

 やわらかさ……?
 途端、どこからか棒が飛んできた。
 すごい音を立てて彼の頭に直撃したが、彼は痛そうにしているだけで怪我はないようだ。
 私の件でもそうだが、彼はとても丈夫なのだろうか。

「……あんた、いい度胸してるわね」

 これを鬼の形相というのだろう。
 せっかくの美少女が台無し、になっていないのが、美少女のすごいところなのかもしれない。
 ものすごい剣幕のIさんにまくし立てられて、彼はたじたじになっている。
 そこには先程の『エース』としてのIさんはではなく、『女の子』であるIさんがいた。


 追記。

 後にKさんから聞いた話によると、私を人質に取った違反者は、金属のみを対象とする念動力を持つ能力者だったようだ。あの時、Iさんが私を突き飛ばしたのは、店内にあったナイフやフォークから守るためだったらしい。
 思わぬことに巻き込まれはしたが、収穫もあったと言えよう。
 私は主にKさんからIさんの話を聞くので、好意的な言葉を耳にすることが多い。
 だが、そうではない言葉を聞くこともある。
 どちらが本当の彼女なのだろうかと思っていたのだが、どちらも本当の彼女なのだろう。
 彼女の仕事っぷりはとにかくあっぱれだ。
 Kさんいわく、『Hちゃんはすごい』。
 これは同意せざるを得ないだろう。
 だからといって、KさんのIさん話を鵜呑みにしたりはしない。
 彼女の話は、合っているけど合ってないような気がしてならないからである。
 まだまだ観察が必要だろう。
 怪我がなかったとはいえ、吹っ飛ばされたことは忘れない。ええ、忘れませんとも!
 とはいえ、あれも彼女の不器用な優しさなのだと私は思う。


 ……仲良くなれたら、いいなあ。

作:苑屋ココト