さらに、文武両道、品行方正。その上、学園でも1、2を争う美少女だ。
そんな彼女に、上坂香代という同い年の友人がいる。
香代とは、中学校からのつき合いで、さらに執行部と共に任務にあたる情報分析班に属している。
つまり、ひなたの親友だった。
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執行部の任務を終えた二人は、一緒に夕食を取ることにした。
ひなたと香代が訪れたのは、学生地区の南側、ギノザ区にあるフレンチレストラン『プロヴァンス』。数ある学生地区の飲食店でも、高級感を売りに、女子生徒たちから人気の店舗だった。
「ひなたちゃん、知ってる? この店で出しているチーズは、地元の山羊チーズを使っているんだって」
そう言うと、香代は一口サイズにちぎったバケットを口に含んだ。
「沖縄の山羊?」
「もぐもぐ……他にも、ハーブなんかも県産の物を使っているんだったかな。こだわり、だよね」
「ふーん、よく知ってるのね。さすがは情報分析班」
ひなたが感心したように、ハーブとオリーブオイルをふんだんに使われたトマトの野菜料理を見つめた。
すると、香代はわざとらしく胸を張ると、自慢げにこう言った。
「相手を攻略するためには、その前に、できうる限りの情報収集を行い、戦略を立てなきゃいけないんです!」
「あー、つまりお店のホームページと食べ歩きブログを見たってことね」
「もう、ひなたちゃん! そんな風に言っちゃうと台無しだよお」
香代が頬を膨らませる。
直後に、二人の顔に笑みが浮かんだ。
と、香代がコホンと小さく咳払いをしてからひなたを見つめた。
「……ところで話は変わるんだけど、例の彼との生活はどうなの?」
彼女が口にした『彼』とは、ひなたと共に二人暮らしをしている風澤望のことだ。
二人はある出来事をきっかけに、共同生活をすることになったのだが、それは極限られた人間にしか知らされていない。
今年、高校1年生になったばかりの男女が、ひとつ屋根の下で暮らしている、という状況をひなたの親友の香代は心配しているのだ。
香代は、テーブルに身を乗り出すと声をひそめた。
「ほら、同い年の男子ってアレじゃない? お風呂のぞかれたりとか、下着取られたりとか……大丈夫?」
香代の問いかけに、ひなたの顔が赤くなった。
「な、ないよ……そんなこと。その点は問題ないから」
「……本当に?」
「本当だって。あいつ、絶対に、そんなことはしないよ。それに自室の鍵を増やしたり、バスルームに入る時も入念に鍵をかけるようにしてるから大丈夫」
「ひなたちゃんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど、もし何かあったらすぐに知らせてね。葉澄先輩や剛山隊長と一緒に駆けつけるから」
「ハハハ……うん、よろしく」
ひなたが乾いた笑みを浮かべる。
とりあえず、今も親友の身が汚れていないと納得した香代だったが、男子と二人で暮らしている彼女に興味津々なのには変わりなかった。
「ねえねえ、どんな感じなの? 男子と一緒の暮らしって。わたし、女子寮での生活しか知らないし、中学校まで女子校に通っていたから……」
香代の言う通り、結波市の学生は、ほとんどが寮で暮らしている。男子寮と女子寮には、小学校から分かれており、男女が共に生活する、という経験をしたことがある生徒はまれだった。
「どんな感じ、ってきかれても……お互いに、自分の部屋があるから、プライベートは守られているし」
「でも、ご飯は一緒に食べるんでしょう?」
「うん、まあね。だからって、特別なことはないけどね。相手もあたしも、勝手に料理作って勝手に食べているような感じだから」
「へえー、料理を作ってあげたりはしないんだ?」
「えッ? ああ、うん……それは……」
「?」
ひなたが、急に歯切れの悪い言い方をしたので香代は首を傾げた。
しかし料理の件は、ひなたがうやむやにしてしまったので、香代は別の質問をぶつけることにした。
「そうは言っても、相手を意識しちゃうこととかってあるんじゃないの? 」
「意識? 例えば?」
「やっぱり男子がいたら、朝起きて、寝癖のままじゃ部屋を出られない、とか」
「それは……あたし、女子寮でも寝癖をつけたまま、食堂に行ったりしなかったから」
「え? あー、そう言えば。ひなたちゃんが寝癖をつけたまま朝ご飯を食べてるの、見たことない! わたしなんか、毎日なのに!」
「……普通じゃないの?」
「うちの寮には、下着姿で1階の売店に行ったりしてる子もいるよ」
「そんなこと、一度もしたことないわ。香代ちゃんは、あるの?」
「え? わたし? わ、わたしのことはいいじゃない。ね? うん、そうかあ、ひなたちゃんはそうなんだね……」
香代は何度も首を縦にふると、「それにしても」大きく唸った。
「ひなたちゃんって……」
中学校からの親友は真剣な表情を浮かべると、ひなたをマジマジと見つめた。
「本当に優等生なんだね」
「……なによ、それ?」
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一条ひなたは執行部のエースである。
親友の上坂香代は、彼女を賞賛する時に使われる『品行方正』という言葉に、嘘偽りがないことに驚愕した。
作:津上蒼詞