アンダーポイントとは研究対象にもならない微弱な能力者の名称だ。
そんな望には、成島隆人という親友がいる。幼稚園の頃からのつき合いなので、幼馴染と言えるだろう。
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ある日の放課後。
望と隆人は、学校帰りに喫茶店へ足を運んだ。
「あ、そう言えば、隆人とこうしてふたりっきりって珍しいんじゃない?」
望はそう言うと、残り少なくなったレモンサイダーを飲み干した。
「ふたりっきり? ああ、そうだな。いつもは、翔太郎とか熊谷、和基とつるんでるからな」
隆人も望に指摘されて、それに気づいたようだ。確かにふたりっきりってのは珍しいな、とうなずく。
望、隆人、翔太郎、熊谷、和基は、クラスで『アンダーポイント五人組』とよばれている男子グループだ。休み時間や昼休みになると、教室の一角にあつまり、男子っぽいバカ話で盛り上がったりしている。放課後や休日は、五人で遊ぶことが多かった。
だが、今、喫茶店で話をしているのは、望と隆人の二人だけだ。他の三人は用事があるらしく、今日はふたりだけで過ごすことになった。
「俺と望だけ、ってのは結構レアだな。ほとんど無いんじゃないか?」
「うん、僕と隆人と翔太郎ってパターンは、わりとあるけどね」
「望だけいない、ってパターンは結構あるけどな」
隆人が飲み終わったグラスに残っていた氷をバリバリ噛みながら答えた。直後にテーブルに備え付けられていた呼び出しボタンを押す。
「僕だけいないパターン?」
望が首を傾げる。
「ああ、何してるのかはわかんねーけど。高校に入ってから週に1、2回はあるな」
そう言われて、思い返した望には「あッ」と小さく声を漏らす。思い当たる節があったからだ。
結波中央学園に入学してから、一条ひなた、織戸神那子、イリーナ・アンダーソンなど、中学時代にはなかった人間関係が一気に増えた。
その影響で、隆人たちと一緒にいる時間が減ったのは事実だった。
「そ、そうだね……最近の僕って、やっぱり、つきあい悪いかな?」
「なんだ、そりゃあ? 確かに、入学してから望がいないパターンが増えたけど、そんなの前々からだろ?」
「へえッ?」
望が驚いて変な声をだしてしまう。
隆人が眉をひそめた。
「なんだよ。無自覚だったのか? 望が理由も告げないで、フッといなくなるのはいつものことだろ。そして次の日とかに、何事もなかったように俺たちの所にやってくる……中学の時だって、ちょくちょくあったぞ」
望がうーん、考え込んでしまう。
(思い当たる節があるような、ないような……)
と、二人の席に女性店員がやってくる。隆人が二杯目のコーラを注文した。
女性店員が奥へと引っ込んでいくのを、隆人がイスから身を乗り出してまで見送る。ボゾリと「すげえ、巨乳」とつぶやいた。
それから望の方に顔を向けた隆人は、考え込んでいる彼を見て呆れたように言った。
「なんだよ、見てなかったのかよ。この店に来たのは店員のレベルが高いからじゃねーか。もったいないなあ」
「え、ああ……うん」
望の反応が薄かった。
いつもなら、隆人と一緒に下品なバカ話に突入するところなのだが、今日は違った。
「隆人はさ、僕がフラッといなくなって、それから戻ってきても理由を聞かないよね」
先ほど、話にあがった『自分が、ちょくちょくいなくなる件』について、望はいくつか思い当たる節があった。原因はバラバラだが、結波中央学園に入学した後に、ひなたや織戸、イリーナとの間で起きた様々な出来事に似た感じだ。
もっとも、ひとつを除いては、細々とした小さな出来事ばかりだったのが。
それを思い返していた望は、隆人が理由を聞いてこないことに、今更だが気づいたのだ。
「僕が何をしていたのか、気にならないの?」
望には、隆人に秘密にしていることがいくつかある。
入学してから出会った三人の女の子に関することや自分の能力のことなどだ。
親友であるはずの隆人に話していない。それが望に罪悪感を抱かせていた。
「そうだなあ。気にならない、と言ったら嘘になるけど、お互いに相手に話していないことなんて、いくらでもあるだろ? それに仲が良いからって、何から何まで教え合うなんて、ぶっちゃけキモくないか?」
隆人が望を見つめながら小さく笑った。
「あと、お前は俺に話さなきゃならないことはちゃんと話すヤツだろ? お前から言ってこないなら、それは聞かなくてもいい話ってことになる。だったら、無理に話すな。俺は、それでかまわないよ」
「隆人……」
その瞬間、望は胸のつかえが取れた気がした。
そして、ちょっとだけ親友のことが格好よく見えた。
「お待たせしました」
ちょうど、女性店員が注文したコーラを運んできた。
「あの、お客様……」
女性店員が隆人に声をかける。
「ジロジロ、見ないでもらえませんか!」
強い口調だった。
隆人の表情が、一瞬にして引きつる。
「え、いや、ジロジロって……」
「入店してから、うちの女の子たちを変な目でジロジロみてるじゃないですか。不愉快です!」
そう言い放つと、女性店員はツカツカとその場を離れる。
彼女が向かった先では、数名の女性店員が出迎えた。
「言ってやったわ!」
「先輩、すごいです」
「ありがとうございます」
一方の隆人は、石化でもしたように固まっていた。こころなしか、白っぽくなってるようにも見える。
望は苦笑いを浮かべると、そんな親友を、心底かっこ悪いと思った。
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後日、隆人が石化した話は学生地区に知れ渡ることとなり、美人の女性店員に罵られたい一部の男性客が殺到する店となった。
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風澤望はアンダーポイントである。
彼には、格好いいのか格好悪いのかわからない、成島隆人という親友がいる。
作:津上蒼詞