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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2014/02/28

+Cな日々 その39
(図書室の女王)

 織戸神那子は最重要能力者である。
 最重要能力者とは日本でもっとも稀少とされる能力を持つヴァリエンティアのことで、その能力は国家が保護・管理するべきだと思われている。
 その織戸本人は、いつも無表情で感情を表に出さない少女だ。また愛読家でもあり、数冊の本を持ち歩いている。

 織戸が結波中央学園に入学してから数ヶ月が過ぎた頃。
 いつも本を読んでいる彼女に図書委員をしているクラスメイトの西山千秋が、一緒に図書委員をやらないか、と声をかけてきた。

 翌日、織戸は図書委員となった。

+ + +

 図書委員会に入ってから数日後、織戸は千秋と一緒に放課後に図書室を訪れた。
 少し早かったのか、他の図書委員はまだ来ていないようだった。

「今日は、図書委員のみんなで広報に載せる記事の確認をするの」

 織戸を図書室の奥のテーブルへと案内した千秋は、そう言って鞄から学生証を取り出した。
 学生証は身分証明のためのIDという役割を持っているが、電話やメール、電子マネーの支払いにネット接続とモバイル端末としての機能も完備している機械だ。
 千秋が学生証を取り出したのは、その中に掲載する記事が保存されているからだった。

「広報ですか? そう言えば、結波中央学園の総合サイトに図書委員のページがありましたね。そのページのことでしょうか?」
「織戸さん、広報のこと知ってるの?」
「はい、何度か拝見させてもらいました。おすすめの書籍や新しく入荷する書籍の情報などが掲載されていましたね。Queenと言う方が担当されている小説の批評は、独自の視点で解説していて、非常に興味深い記事だと思いました」

 織戸が答えると、千秋は黒縁メガネをキラリと光らせた。

「見てもらっているなら、話が早いわね。ちなみに来月からは、織戸さんにも広報に載せる文章を書いてもらおうと思っているから」
「私が、ですか?」
「織戸さん、ってそう言うの得意そうだから、きっと大丈夫だよ。それに、先輩たちにも了承は取ってるし」
「しかし私は、図書委員になったばかりですし……」
「大丈夫、大丈夫。それじゃあ、お願いね」

 千秋の強引なお願いによって、織戸は来月からサイトに載せる文章を書くことになってしまった。
 だが千秋の言った通り、織戸は物事を解析し、それを説明するといったことが苦手なわけではない。むしろ得意な方だろう。文章を書くのも苦にならない。

「わかりました。できる範囲でやってみます……ところで、千秋さん。あちらの方も図書委員なのですか?」

 織戸の視線の先、二人が座っている大きなテーブルの端に、結波中央学園の制服を着た長い金髪の少女が腰掛けていた。
 結波中央学園は、超能力研究の分野で協力関係にあるアメリカから、多くの留学生を受け入れている。織戸が在籍している1年C組にも数名のアメリカ国籍の生徒がいるぐらいだ。
 そこにいる金髪の少女も、そんな留学生の一人なのだろう。

「エリー先輩? そうだね。一応、図書委員ってことになってるみたい」

 それまで本を読んでいた金髪の少女が織戸と千秋の方に顔を向ける。
 エリー先輩と呼ばれた少女は、驚くほど整った顔をしていた。西洋人特有の彫りが深く、鼻筋の通った造形は、和風美人の織戸とは対照的で、クラスメイトのイリーナとも毛色が違うタイプだが間違いなく美少女だった。

「エリー先輩、新しく図書委員に入ってもらった1年C組の織戸神那子さんです」
「織戸神那子といいます。よろしく、お願いします」

 織戸が頭を下げると、エリー先輩はその顔に微笑を浮かべた。

「エリザベス・モーガンです。織戸神那子という名前には聞き覚えがありますね。日本の最重要能力者、インフィニット・クリエイトの名前だと記憶していますが……」

 初対面であっても最重要能力者の名は知られていることがほとんどだ。
 ちなみに、エリー先輩が口にした『インフィニット・クリエイト』は織戸の複製能力に対して英語圏の人間がよく使う名称だった。

「はい、その織戸神那子です」
「そうですか、インフィニット・クリエイトとお知り合いになれるなんて光栄です。ワタシの方こそ、今後ともよろしくお願いします」

 一通り、挨拶を終えるとエリー先輩はまた読書を始めた。

「エリー先輩は、一応、図書委員だけど、ほとんど仕事はしていないんだよね。うちの委員長が『そういう約束』で図書委員に入れたらしいけど、詳しくは知らないんだ」

 千秋は織戸よりも早く図書委員に入ったが、同じ一年生なのでその差は数ヶ月程度だ。それ以前のことは彼女にもわからないことが多いようだ。

「あ、そう言えば織戸さんが興味深いって言ってたコラムを書いているQueenは、エリー先輩のペンネームだよ」
「あの方が書いた物だったんですか」
「まあ、エリー先輩がやっているのってあれぐらいなんだけどね。本棚の整理とか窓口の受付とかは一切やんないんだよね……でも、なんかすごい人だって話だよ」
「すごい人……それは能力が、と言う意味ですか?」

 超能力研究を行っている結波市で『すごい人』と呼ばれるのは、大抵が能力に関係している。
 だが、エリー先輩が『すごい人』である理由は、そうではないようだった。

「ううん、能力とかではないらしいよ。委員長や他の先輩たちが言うには──」

 そこで、千秋が含みを持たせるように言葉を区切った。

「──エリー先輩は『探偵』なんだって」
「た、探偵ですか?」
「うん。そして、またの名を【図書室の女王】」

 探偵、そして【図書室の女王】。

 織戸は、そのフレーズを聞いて表情こそ変えなかったが、テーブルの端で黙々と本を読むエリー先輩から目を離せなくなってしまった。

+ + +

 織戸神那子は最重要能力者である。
 これが、後に数々の事件を解決し、彼女を驚かせる【図書室の女王】エリザベス・モーガンとの出会いだった。


作:津上蒼詞