さらに10歳で高校進学をはたすほどの秀才であり、その容姿からクラスでもアイドル的な存在だ。
そんなイリーナに、最近、風澤望という『お兄ちゃん』ができた。
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「お兄ちゃんとお買いモノ~、お兄ちゃんとお買いモノ~」
イリーナが望の隣を歩きながら、即席の歌を口ずさむ。
それを聞いた望が照れ笑いを浮かべる。
「そんなにうれしいの? 買い物って言っても食材を買いに行くだけだよ?」
イリーナは今日の昼休みに、夕食は望と一緒に食べる約束をした。それも外食ではなく、望とひなたが二人暮らしをしている部屋でだ。
それから放課後になり、ひなたが料理の準備をしている間、二人は食材の買い出しに行くことになった。とはいえ、望一人でも、食材を買いに行くことはできる。イリーナがついてきたのは少女が一緒に行きたいとお願いしたからだ。
「うれしいよ。だってお兄ちゃんと一緒なんだもん!」
イリーナは満面の笑みを浮かべると、望の右腕に抱きついてきた。そして、恋人同士がするように腕をからめる。
10歳のイリーナと15歳の望では、かなり身長差があるため、腕を組もうとすると少し不格好になってしまう。しかし、そのおかげでいやらしさがなく、むしろ二人の様子は微笑ましく見えた。
望も相手がイリーナなので、変に意識することなく優しく笑っていた。
そんな二人とすれ違った学校帰りの女子生徒達は、少し離れてから「今の女の子、かわいかったね」と振り返ってイリーナと望の姿を見返す。
その時、突然、イリーナが足を止めた。
「ちょっと待って、お兄ちゃん」
するとイリーナは店先のショーウィンドーに目を向ける。そこには、望と腕を組んでいる自分の姿が映っていた。
「どうしたの?」
望もショーウィンドーに視線を向けた。
ショーウィンドーに映るイリーナは、長い金髪の青い瞳をした美少女だった。背格好も今年で10歳の女の子らしい、身長と体つきをしている。
一方の望は、黒髪に黒い瞳、顔つきも日本人の少年だ。16歳になる彼とイリーナでは、体格差がかなりあった。
イリーナは腕を組み直すと、さらに望の方へと体を寄せた。
「お兄ちゃん、どんな風に見える?」
「そうだねえ……仲が良い兄妹、かな?」
「えー、恋人同士じゃないの?」
「恋人同士ってのは、無理があるんじゃない?」
望が苦笑いを浮かべる。
ショーウィンドーに映る二人は、アメリカ人と日本人の差はあったが、望の言う通り『仲が良い兄妹』に見える。だが、二人の明らかな身長差によって恋人同士のようには見えなかった。
「やっぱり、そうだよね」
イリーナもショーウィンドーに映る自分の姿を見て、残念そうにしていたが、すぐに笑顔で望を見上げた。
「でも、仲良しに見えるんだよね?」
「うん」
「それなら、いいよ! ほら、買い物に行こうよ」
「そうだね。ひなたを待たせちゃ悪い」
そう言って、二人はショーウィンドーの前から歩きだした。
去り際、イリーナはもう一度ショーウィンドーに映る自分と望に視線を向ける。
その時、少女が小さくつぶやいた。
「数年後は同じ台詞を言わせないよ、お兄ちゃん」
イリーナは、今までとは違う少しだけ大人びた笑みを浮かべた。
「ん? 今、何か言った?」
「うんん、何も言ってないよ。そんなことより、早く買って帰らないと、ひなたに怒られるよ」
「そうだね、急ごう」
黒髪の兄と金髪の幼い妹が、夕暮れの通りを仲良く歩いていった。
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イリーナ・アンダーソンは第二世代能力者である。
今はまだ、お兄ちゃんにとっては幼い妹だが、数年後も同じだとは言い切れない。
作:津上蒼詞