結波中央学園に通う、男子高校生だ。
そんな僕が『ひょんなこと』から、学園でも1、2を争う美少女・一条ひなたと二人暮らしをすることになった。その『ひょんなこと』だけど、僕の能力だとか、運営規約だとか、生徒会とか運営委員会とかセントラルとか、込み入った事情があるんだけど……上手く説明できないんだよね。
正直、僕はこうなった経緯をちゃんと理解していないんだ。あははは。
同級生の女の子、それも美少女と一緒に生活するなんて男子高校生なら誰もが夢見るような状況だよね。
朝はその子が起こしてくれたり、朝食や夕食を作ってくれたり、学校帰りは一緒に帰ったりとかさ。
そんな生活の中で、自然とその子と色々な話をするようになって、少しづつお互いの距離が縮まっていく……みたいな?
僕だって『同級生の女の子と暮らすことになった』なんてシチュエーションに、そんな願望を抱いていたんだけど、現実はそんなに甘くなかった。
確かに、一条ひなたは美少女だよ。そりゃあ、めちゃくちゃ可愛い。
黒髪サイドテールに凛とした顔立ち、目元に勝ち気な印象はあるけれど、それがかえって彼女の容姿を引き立てていると思う。
だけど、ひなたは『執行部のエース』なんだ。
執行部と言うのは……えーっと、たしか……結波市の学生たちによる学生組織『生徒会』の部署の一つで、能力を悪用している生徒を取り締まっているんだ。
結波市は超能力を持つ子供たちが集められているんだけど、その中には自分の能力で悪さをする者もいるんだよね。人間だもん、時には悪さだってするさ。
でも普通の警察官では、能力者による犯罪に対処するのは難しい。念動力でトラックを持ち上げたり、強化した拳でコンクリートを粉砕したり、パイロキネシスで鉄を溶かしたりするような連中だっているんだからね。
だから、能力者を取り締まるための能力者、として執行部ができた……って話だよ。
そして、僕の同居人であるひなたは、その執行部でナンバー1の検挙率を誇るエースと呼ばれている人物だ。
ひなたは『高速移動』っていう自身の移動速度を何倍にも加速させることができる能力が使えるんだけど、同じ能力者の中でも飛び抜けて高速で正確に動けるそうだ。
少し前に、彼女が「試したことはないけど、拳銃の弾なら避けられるはず」と真顔で話していたけど、ひなたなら本当に出来そうで怖いと思った。
僕は任務中のひなたを目撃したことがある。
その時の彼女は、高速移動を駆使して相手の攻撃をすべてかわしていた。
さらには一撃で相手をノックダウンさせてしまうほど強烈な蹴りと警棒の二刀流によって繰り出される連打だ。
ひなたの圧倒的な戦闘力の前では、ほとんどの能力者は手も足もでないと思う。
外見は本当に可愛くて、体型も華奢な女の子なのに、あの体のどこにそんな力があるのかと思うぐらいの攻撃力を持っている。
一度、僕の不手際で、ひなたの上段突きを食らったことがあるんだけど、痛みを感じるより先に意識を失った。
あれは、本当にやばい!
つまり、ひなたを本気で怒らせようものなら命が危うい──これが『同級生の女の子と暮らすことになった』僕の現状です。
本当、現実って甘くないね。
でも、不思議と嫌じゃないんだ。
僕は『執行部のエース』として、周囲から恐れられている彼女の別の一面を知っている。
ひなたは、いつも不機嫌そうな顔をしているし、性格はキツイし、すぐ怒るけど、それは真面目で正義感に溢れていることの裏返しだ。
そして、この手の人は、思いやりがあって優しい人だったりする。
そうでなかったら、織戸さんやイリーナの件であんな風に振る舞ったりしないはずだよね?
真面目で優しくて、どこか不器用な女の子──それが、ひなただ。
だから……そんな彼女と一緒に暮らすことになったのは、他の『同級生の女の子と暮らすことになった』よりも幸運だったのかもしれないね。
まあ、あのハイキックと正拳突きは要注意だけど。
作:津上蒼詞