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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2014/05/16

tips047
少年A

── SECRET ──

2025年09月11日


 今回から、樋山貴緒に関する情報は、特例機密57として扱うことが決定した。
 以後、樋山貴緒に関する情報は特例機密の守秘義務を厳守すること。

 守秘義務に関する詳細は、別紙に記載


   『特例機密57』


2019年。
 テレパシー能力を有するヴァリエンティア、樋山貴緒(当時8歳)は、テレパシー能力を超能力研究以外の分野で有効活用することを目的に、日本初のヴァリエンティア特別捜査官に抜擢された。

 この際、捜査官の身の安全を守るため、樋山貴緒は『少年A』という名称で公表され、個人を特定出来る情報は公にしなかった。


 樋山貴緒が抜擢されたのは、テレパシー能力が相手の記憶を読み取るほど強力で、有効範囲が半径2メートルと狭いためだった。
 世界規模の超能力事故『スターティングコール』を引き起こしたのはテレパシー能力であったため、第二のスターティングコールを危惧し、テレパシー能力の研究は国際的に禁止されることになった。
 だが樋山貴緒のテレパシー能力は、有効範囲が狭いのでスターティングコールのような世界規模の超能力事故を引き起こす可能性はないと各機関に判断され、採用の許可が下りた。

 日本初のヴァリエンティア特別捜査官となった樋山貴緒は、テレパシー能力によって次々に未解決事件を解決に導く。樋山貴緒が朱音真純と接触したのは、この捜査が原因だった。

 朱音真純は、放火事件の容疑者として逮捕されたが、実際はこの事件の犯人ではなく、同じ時期に発生した連続通り魔事件の犯人だった。
 幼少期から特異な家庭環境で育った朱音真純が異常な精神状態であったことは、彼を担当した精神科医も証言しており、そんな朱音真純と接触したことで樋山貴緒は『精神汚染』を引き起こした。

 朱音真純は放火事件の容疑者として逮捕され、樋山貴緒と接触するが、当初から県警は朱音真純を連続通り魔殺人事件の容疑者と認識していた可能性がある。
 規則では、ヴァリエンティア特別捜査官に殺人事件など凶悪犯罪を捜査させてはいけないと定められているが、県警は連続通り魔殺人事件を解決するために、放火事件の容疑者であると偽り、樋山貴緒と彼を接触させた疑いがある。
 だが特例機密57では、この件に関与しない、と決定した。


 精神汚染により、朱音真純の人格を宿した樋山貴緒は傷害事件を起こす。
 事件の被害者は母親の樋山美佐子。果物ナイフにより腹部を刺されて重傷を負ったが、すぐに姉の樋山美鈴が通報したことで一命を取り留めた。
 この時に、樋山貴緒は駆けつけた警察官によって拘束される。

 この時点で、樋山貴緒は朱音真純の人格に支配されていたと推測される。
 傷害事件を担当した捜査官は、樋山貴緒は自らを朱音真純と名乗り、言動も小学生とは思えないほど大人びていた、と証言している。
 後に精神科医によって、樋山貴緒は朱音真純の人格を有している、という診断結果が出た。

 事件後、樋山貴緒は精神病院へ収容されたが、それから半年後に第二の精神汚染が発生する。
 彼は同じ病棟の患者に、テレパシー能力を使って故意に朱音真純の人格を他人に植え付けていった。これによって患者5名が朱音真純の人格に支配され、内4名の患者が従業員や他の患者に暴行、1名は患者の一人を死亡させている。
 樋山貴緒による精神汚染が発覚した後、病院は彼を隔離病棟へ移す。テレパシー能力の有効範囲が狭かったことで、被害はそれ以上拡大することはなかった。

 いつ頃から樋山貴緒が他者への精神汚染を行えるようになったのかは不明だが、病院へ収容される以前に接触した人物にはその痕跡が見当たらなかったため、出来なかった、もしくは、思いついていなかった、と推測している。


 以上の情報は、一部のマスコミによって公になったが当局によって報道規制が行われた。
 以下の情報は、一切公になっていない。

 事件後、樋山貴緒は特別な施設に隔離され、そこで6年間を過ごす。

 施設の従業員がテレパシー能力の有効範囲内(半径2メートル内)に入らないようにするため、食事や物品の引き渡しは特別な窓口によって行われていた。会話を行う場合はマイクとスピーカーを使い、病室の外から通信することが規則になっていた。


 2025年。
 樋山貴緒(当時14歳)は、何らかの特殊な方法によって施設から逃亡する。

 逃亡が発覚した際、担当の従業員5名は、誰もいない病室を見ても「患者はそこにいるじゃないですか」と樋山貴緒が室内にいると主張するという異常な精神状態だった。
 逃亡が発覚したのは、新たに配属された新人従業員が報告したためで、樋山貴緒が逃亡してから発覚するまでに、少なくとも3ヶ月から半年は経過していたと思われる。

 以後、樋山貴緒の消息は不明。

 樋山貴緒は、他者に無差別殺人を犯す人格を植え付けることができ、本人も殺人鬼の人格に支配されている。
 当局は、彼を非常に危険な存在であると判断し、第一級危険超能力者6号に認定した。

 連続通り魔殺人事件の犯人、朱音真純は6件の殺人罪で死刑判決を受けたが、刑が執行されるのを待たずに収容所で不審死を遂げている。
 樋山貴緒が施設を逃亡した時期と朱音真純が死亡した時期が重なるため、担当者は朱音真純の不審死に樋山貴緒が関与している可能性も含めて調査するとのこと。


──機密文書『特例機密57』より抜粋

作:昌和ロビンソン