さらに10歳で高校進学を果たすほどの秀才でありながら、その容姿は抜群にかわいく、1年C組でもアイドル的な存在だ。
つまり、イリーナは特別な女の子なのである。
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朝。イリーナが登校してくると、すぐに少女の周りには人だかりができる。それだけ人気者だった。
人気の理由は少女の容姿、年齢、振る舞いなど数え上げればきりがない。
イリーナのもとに集まってきた生徒たちは、こんな風に声をかけてくる。
「イリーナちゃん、最近、おいしいケーキを出す店を見つけたんだけど……」
「イリーナちゃん、前に好きだって言ってたマンガの新刊が出たんだけど……」
「この前、イリーナちゃんに絶対に似合うアクセサリを見つけて……」
最近では、別のクラスや学年の生徒からも声をかけられるほどだ。
ここまで来ると、普通なら煩わしく感じるだろう。
しかし、イリーナはいやな顔ひとつせずに集まってくる人たちと話し、天使のような笑顔を振りまく。
そのため周りの人間は、ますます少女を好きになっていった。
だが、そんな周囲の人間には少し気がかりな存在がいる。
その人物の名前は、風澤望。
イリーナと同じ1年C組に籍をおいているアンダーポイントの男子高校生だ。
望はいつの間にかイリーナに気に入られて、他の生徒とは別の扱いを受けている。周りの人間は、どうして望がこれほどまで気に入られたのかさっぱりわからなかった。
イリーナが登校してきてからしばらく経って、望も教室にやってきた。
イリーナは彼が登校してたことに気づくと、それまで周囲にむけていた笑みよりも、さらにかわいらしい満面の笑みを浮かべて望のもとへと駆けよっていく。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう、イリーナ」
そうなのだ。イリーナは望のことを『お兄ちゃん』と呼んでいる。
もちろん、アメリカから留学生としてやってきたイリーナと純日本人の望との間に血のつながりはない。戸籍上も赤の他人だ。
イリーナの話によると、お兄ちゃんになってもらった、そうなのだが当事者以外の人間には意味がさっぱりわからなかった。
だが、望がイリーナにとって特別な存在なのは、充分すぎるほどわかる。
イリーナが好きな人間にとって望が気がかりな存在なのは、こんな理由からだった。
「ねえねえ、お兄ちゃん。今週の日曜日なんだけど、イリーナと一緒にビーチに行こう」
「ビーチ? 学生地区の?」
「うん。イリーナ、フードスタンドでお昼が食べたいの」
「わかった。今週の日曜日はイリーナとビーチで遊ぼう」
「やったー! お兄ちゃんとビーチ。お兄ちゃんとビーチ!」
イリーナが望の腕に抱きつく。
もともと人当たりもよく明るい少女だが、ここまでストレートに愛情表現をむけられる相手は彼だけだった。少し前にはたくさんのクラスメイトの前で「お兄ちゃんが大好き」と公言してしまったこともあった。
当然、周りの人間たちは望の存在がおもしろくない。
イリーナの好意を独り占めする彼を見て、怒りと嫉妬と憎しみにをたぎらせている──わけではなかった。
「イリーナちゃん、めちゃめちゃ喜んでるよ。かわいいなー」
「悔しいけど、風澤くんに甘えている時のイリーナちゃんが一番かわいいんだよね」
「あんな顔を見せられたら、邪魔してやろうって気が起きないよー」
「見ているだけで幸せな気持ちになっちゃうんだよね。うん、あたしたちは見ているだけで充分なの」
みんな、望に甘えるイリーナの姿を見て顔をほころばせていた。
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イリーナ・アンダーソンは第二世代能力者である。
妬みや怒りをも打ち消してしまう、最高の笑顔を持つ10歳の女の子だ。
作:津上蒼詞