もちろん、ヴァリエンティアの軍事利用は認められていない。
2021年、ジュネーブで国際ヴァリエンティア条約が締結されるまでは、暗黙の了解としてヴァリエンティアの軍事利用は認められていなかったが、この条約によって禁止事項に明記された。
この条約には国連の加盟国すべてが加入している。それだけ各国がヴァリエンティアの持つ超能力に危機感を抱いていることの現れなのだろうが、おかげで子ども達が戦場で殺し合うような最悪の事態はまぬがれた。
だが安心してはいけない。
ヴァリエンティアの力はすぐにでも軍事利用できる能力が多い。
特に、各国が『最重要能力者』に指定しているヴァリエンティアは、即座に大きな軍事力となる。
アメリカ合衆国の最重要能力者、マクスウェル・ブリックロードはその能力があまりにも桁外れであったために「世界最強の能力者」を意味する『ザ・ワン』と呼ばれているほどだ。
彼の能力が軍事転用された場合、どれだけ猛威を振るうのか検討もつかない。
さらに日本の最重要能力者、織戸神那子の場合はある意味ではマクスウェル・ブリックロードよりも危険だ。
織戸神那子は複製能力という対象物の精巧な複製物を生み出す能力を持っており、分子レベルでの完全な複製を行えるほどの精度を持っている。さらに対象物の質量や複製回数にも限界がない。
もしも彼女の能力が軍事転用された場合、一隻の戦艦や一機の戦闘機、一両の戦車、一丁の銃が何百、何千、何万という数に複製される。
最悪の場合は、核ミサイルが複製されてしまった時だ──これは、もう考えたくもない。
もちろん、最重要能力者でなくてもヴァリエンティアであればサイコキネシスやパイロキネシス、身体強化などが使用できれば従来の兵士と比べ物にならない戦力を産み出すだろう。
残念ながら、いくら国際条約で軍事利用が禁止されていたとしても、ヴァリエンティアを戦争に参加させる国が出てくる可能性は否定できない。軍事力強化の面で、これほど優秀な人材はないからだ。
そのため国際ヴァリエンティア条約のもと、各国が目を光らせているだけでは不十分だ。
各国の政府は、世界中の地域で平和活動、人権保護、ヴァリエンティア保護などを目的に活動している多くのNPO団体と連携し、情報共有と活動支援を行うべきだろう。
我々、大人にはヴァリエンティアが紛争に巻き込まれない国際社会を作る義務があるのだから。
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最近、様々なメディアで「平和活動や有事の際の救援活動のためにヴァリエンティアの軍(または自衛隊)への入隊を認めるべきか?」という議論が活発におこなわれるようになった。
この議論は、ヴァリエンティアの平和利用と考える者と軍事利用へ繋がると考える者との間で大きな論争になっている。
筆者の個人的な意見は、平和活動や救援活動に限るのであれば賛成だ。
しかし、軍事利用へ繋がると考えている者たちの言い分もよくわかる。
この答えは、慎重に慎重を重ねて出すべきだろう。
──RAIZEN著『彼等(この子達)と共に生きていく』より抜粋
作:昌和ロビンソン