一般的、と言っても結波中央学園に通っているので超能力者ってことになる。
でも同じクラスの一条さんや織戸さんみたいにすごい能力者ではない。
あれば便利って程度のささやかな力しか持っていない。ささやかな能力者だ。
そんな平凡な私が、高校生活を左右する大問題を抱えてしまった!
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その日の昼休み。
「聖歌。『CC Sound Player+』って知ってるか?」
吉田和基がナチュラルに話しかけてきた。
そして躊躇なく、私の前の席に座る。
「え? シーシーサウンド……?」
「『CC Sound Player+』最近見つけた学生証用のオーディオプレイヤーアプリでさ、けっこう多機能で何より音が良いんだ」
「へ、へえー……そうなんだ」
「聖歌も試してみるといいぜ?」
和基はそう言うと私に無防備な笑みを向けてきた。
「そうなの? じゃあ試してみる」
私は学生証を取り出して画面を見つめた。
和基が進めてくれたアプリを検索するため、ではなく。
彼の顔を見ないようにするためだった。
彼が話しかけてくるようになったのは一週間ほど前。
私が見栄を出して購入したイヤホンに和基が気づいて声をかけてきたのがきっかけだった。
『それってソニックバックだろ?』
そのときの彼は、私が知っている吉田和基とはまったく別人だった。
1年C組で『アンダーポイント五人組』と呼ばれている五人の男子。風澤望、鳴島隆人、三浦翔太郎、熊谷冬弥、そして吉田和基。彼らは良い意味でも悪い意味でも目立つ男子グループだった。
そんな、少し不良っぽいグループ、にいる和基は無口でクールな感じの男子だった。
首にはトレードマークのようにヘッドホンを下げていて、一人でいるときは難しい顔をしながら、音楽を聴いている。
正直、私は和基にちょっと怖い印象を持っていた。
しかし声をかけてきた彼は、申し訳なさそうにしたり、喜んだり、子供みたいな笑みを浮かべた。
『また話そうぜ。聖歌』
去り際、彼はすごくナチュラルに私の下の名前を呼んだ。
その日から和基が私に話しかけてくるようになった。
あ、さっきから私も彼を『和基』『和基』と下の名前で呼んでいるけど、それは彼の要望だから。勝手に呼んでいるわけではないから──って話が逸れた。
その日から和基が私に話しかけてくるようになって、いくつか問題が発生した。
話をするきっかけになったイヤホンのことで、彼は私を『音楽関係に詳しい女子』と認識したらしい。声をかけてくるときの話題が、玄人っぽい内容ばかりなのだ。正直、私にとってはチンプンカンプンなネタばかりだ。
それを素直に「わからない」と言えればいいのに、私ときたら……。
「このモードの部分を選択するの?」
「そう。聖歌はソニックバックを使っているから『stocksound CQ』を選べば最適化されるはずだ」
「……あ、全然違う! 音質が上がった感じ」
「だろ?」
和基がうれしそうな顔をした。
しかし、私はどんな風に音が変わったのかわかっていない。
音質が上がった感じ、とか言っちゃっているが知ったかぶりをしているだけ。
私は『にわか』だった。
さらに生まれついての見栄っ張りな性格が災いして『音楽関係に詳しい女子』を演じてしまう。
それに比べて和基は本当に詳しい。
話題はオーディオ関係に止まらず、洋楽、邦楽、インディーズ、ネオユース、さらには楽器におよぶほど恐ろしく幅広い。
そんな彼に「わかる、わかる」とか「そうだよねー」と答えてしまう。
どこまで見栄っ張りなの私?
後日、ボロを出さないために、話題に出た専門用語をネットや雑誌で調べたりしているけど……もう、いっぱいいっぱいです。
そして、さらに問題なのが……。
「気に入ってくれたか? このアプリを見つけた瞬間、聖歌に教えなきゃ、って思ったんだ。正解だったな!」
和基が目を細めて笑う。
そう、そうそれ! その顔が問題なのよ。
なんなの、その笑顔!
アンダーポイント五人組と一緒に騒いでいるときだってポーカーフェイスのくせに、なんで私と話しているときだけ……まあ、理由はなんとなくわかるんだけどね。
今までは友達の中にも、この話題についてこれる人がいなかったから、私という音楽の話ができる相手を見つけてうれしくて仕方がないんでしょう?
だからって、そんな無防備な笑みを男子が女子に向けるのはどうかと思う。
わかってるのかなー? それは付き合ってる彼女にしか見せちゃいけない類の表情だよ?
さらに、いつもの彼とのギャップでその表情はまるで凶器よ。
相手をさせられている私の身になって。
何度、心臓が止まりそうになったことか。
「そうだ。聖歌って……」
そのとき、昼休み終了を知らせる予鈴が鳴った。
「そろそろ、自分の席に戻らなきゃな……また良いのを見つけたら教えてやるよ」
和基が立ち上がる。
ようやく彼から解放されるのだ!
よかった。これで落ち着ける。
しかし立ち去る直前、和基が振り返った。
「あー、忘れるところだった。聖歌ってオーディオプレイヤーだけじゃなくて、MIDIプレイヤーにも興味ある? それなら、いくつか紹介できるぜ?」
不意打ち過ぎる。
「ん? どうした?」
「……ほ、本当? 興味あったんだ。お願いしようかな?」
「ああ、任せろ!」
彼が席へ戻っていく。
しばらくの間、私の胸はドキドキが止まらなかった。
「えーっと、なんだっけ? みでぃーぷれいやー? なにそれ? 今のはわからないって答えてもよかったんじゃないの? あーあ、寮に帰ったらどんな物か調べないと……はあ」
どこまでも見栄っ張りな自分にため息が出た。
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桜井聖歌は『吉田和基』という大問題のせいで、心臓に悪い高校生活を過ごしている。
この関係がさらに発展するなんて、そのときの私は考えもしなかった。
作:津上蒼詞