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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2014/08/08

+Cな日々 その50
(イリーナとビーチ)

 風澤望はアンダーポイントである。
 結波中央学園に進学してすぐに、第二世代能力者のイリーナ・アンダーソンに気に入られ、少女の『お兄ちゃん』になった。

+ + +

 結波市は日本最南端の高度政令都市だ。
 海岸線のビーチは、夏になると南国のマリンリゾートのようなにぎわいを見せる。

 青空に入道雲、エメラルドグリーンの海と白い砂浜。
 そしてビーチに集う若者達。

 ポストカードの一枚にしても遜色のない光景だ。


 その日、望とイリーナはビーチに遊びにきていた。
 二人が、ビーチサイドに設置されているパラソル付きのテーブルで休憩を取っている。そのテーブルには近くの売店で買ったかき氷が並んでいた。

「どう、イリーナ? おいしい?」
「うん、おいしい!」

 イリーナが満面の笑みを浮かべた。
 少女のかき氷は何種類ものシロップで色分けされたカラフルなシェイブアイス。そのてっぺんにはバニラアイスまで乗っていた。

「いろいろな味がするよ。こっちはメロン味で、こっちはストロベリー……お兄ちゃんはどう?」
「ぼ、僕のかき氷?」

 望は自分のかき氷を見つめて、苦笑いをした。
 彼の前には、紫と黄色の二色に分かれたかき氷がおいてある。小さくカットされたフルーツもトッピングされていた。

「もちろん、おいしいよ。でもメニューの写真を見てグレープ味とレモン味だと思って注文したんだけど……」
「それ、ドラゴンフルーツとマンゴーだよ!」
「うん、勘違いしちゃった」
「……お兄ちゃん」

 望の早とちりに、イリーナは呆れ顔になった。

「それじゃあ、勘違いしちゃったお兄ちゃんのためにまた一緒に来よ。次はちゃんとグレープ味とレモン味のかき氷をたべるの、ね?」

 そしてフォローまでされてしまう。

「そうだね。また来ようよ」
「約束だよ」
「もちろん」

 それから、お互いのかき氷を味見したり、次に行く場所を相談していると、イリーナが砂浜へ目を向ける。
 そしてうらやましそうな顔でつぶやいた。

「イリーナもあんな風にかわいい水着をきたいなあ」

 イリーナが見ていたのは、そこで遊んでいる水着姿の学生達だった。

「水着、持ってないの?」
「もってるけど、新しいのがほしい」

「?」

 どうやら望に『新しい水着が欲しい女の子の気持ち』は理解できなかったようだ。
 すでに持っているのにどうして? と口には出さなかったが不思議そうな顔で首を傾げた。

「そうだ! 新しい水着はお兄ちゃんに選んでもらう!」
「え! 僕が選ぶの?」
「ねえねえ、お兄ちゃんはイリーナにどんな水着を着て欲しい?」
「どんな、って……」

 一般的な15歳の男子がそうであるように、望も女の子のファッションには疎い。もちろん、女子の水着にどんな種類があるかなんて知らなかった。

 困った望は砂浜へ視線を向けた。そこから見える女の子達の水着を参考にしようと考えたのだ。

 だが、その判断が良くなかった。

 望の視界にある女子が映る。
 金髪碧眼の彼女は、イリーナと同じアメリカからの交換留学生のようだった。年齢は望より二つ上だろうか? 日本人離れした見事なプロポーションをしている。
 さらに身につけているビキニの露出度が高い。彼女の胸を包んでいる小さな三角形の布は、なんとかきわどい部分を隠しているにすぎなかった。

(うわ、すげぇ!)

 望は、そのビキニに目を奪われてしまった。
 健全な男子高校生なら仕方がないだろう。

「お兄ちゃん?」

 望はイリーナの声で我に返った。

「もしかして、お兄ちゃん……」

 イリーナが望とビキニ姿の女子を交互にみつめる。

「まさかイリーナにあれを着てほしいと思っていたの?」

「……は?」

「ちょっとエッチな水着だけど、お兄ちゃんがどうしてもって言うなら……恥ずかしいけど、いいよ?」

 少女が上目づかいでたずねる。
 その頬は赤みをおびていた。

「イリーナ、お兄ちゃんのためにがんばる!」
「いやいや、ちょっと待って! そんなつもりじゃなくて!」

 望が慌てて訂正する。
 もし、そんなきわどいビキニを着たイリーナをクラスメイトの面々に見られたら、それが彼の要望だと彼らが知ったら──間違いなく、望は犯罪者扱いされるだろう。

 イリーナは10歳の女の子なのだ。

「頑張らなくていい、頑張らなくていいから! 普通の水着にしよう? あ、あれ! あんな風にお腹まで隠れてる……」
「え、あの水着の方がいいの? でも、あの水着は後ろが……もう、お兄ちゃんのエッチ」
「うわっ、なにあれ? ヒモ? 背面の露出がありえないレベルまで……いや、そうじゃなくて!」

 望は慌ててしまって、うまく訂正ができない。
 危うくとんでもない水着をイリーナに着させることになりかけたが、それを防ぐために、来週はイリーナと二人で水着を買いに行く約束をする。
 そこで10歳のイリーナが着ても問題ない無難な水着を選べば、自分が犯罪者扱いされることはないと考えたのだ。

 残念ながら、その判断も良くなかった。

+ + +

 風澤望はアンダーポイントである。
 この日から一週間後。
 彼は女性用水着専門店が男子高校生にとっての危険地帯であることを思い知らされる。


作:津上蒼詞