一般的と言っても結波市に住んでいるので、一応、超能力者である。とは言っても同じクラスの一条さんや織戸さんみたいにすごい能力は持っていない。あれば便利って程度のささやかな能力だ。
今年、2029年の春からスタートした平凡な私の平凡な高校生活は、友達アリの彼氏ナシ。
気になる男子は……アリ、かな?
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いつもの昼休み。
私はクラスメイトの永野花純と一緒に教室で昼食をとっていた。
「昨日、Version17の去年のライブ映像を見たんだけど……」
花純が人気男性ユニット、Version17の話をしてきた。
私と花純は同じ中学校出身で、さらに同じVersion17のファンであったことで仲良くなった。休み時間など、二人で過ごしている時はだいたいVersion17の話をしている。
私は彼らのポップでノリの良い楽曲が好きなのだが、花純の方は楽曲よりも彼ら自身に興味があるみたい。アイドルファン的な感じだ。
私もVersion17の男臭くないルックスと5人並んだ時の華やかな雰囲気は嫌いじゃない──というか大好きだ! もう、最高だよVersion17。
……うん。本当は私も充分、アイドルファン的な楽しみ方をしています。楽曲うんぬんの話をしたのは単なる見栄です。音楽通ぶりたかったんです、ごめんなさい。
ま、まあ、それはいいとして──二人で昼食を食べながら、しばらくVersion17の話をしていた時だった。
急に花純が話題を変えた。
「ところで聖歌、昨日、吉田君と一緒にいるところを見かけたんだけど……」
花純の口から『吉田和基』の名前が出た瞬間、心臓が飛び上がったかと思ったが、その口からさらに衝撃的な言葉が飛び出した。
「……もしかして付き合っているの?」
危うく口の中のツナサンドを吹き出すところだった。
「ご、誤解だよ。そんな関係じゃないから!」
ツナサンドを急いで飲み込み、あわてて訂正する。
花純も確信があっての発言ではなかったらしく、時々音楽関係の話をするようになっただけだと説明すると、つまらなそうな顔を浮かべた。
話題に上がった吉田和基は同じクラスの男子だ。
良く話すようになったのは、つい最近になってからだ。
きっかけは私が使っているイヤホン。それは自分でも笑っちゃうような理由で購入した、私に不釣り合いな高性能イヤホンだった。
『それってソニックバックだろ?』
持ち主の私でもわからない、このレッドとシルバーのイヤホンの良さを、和基だけが気づいて声をかけてきた。
ただの見栄っ張りでにわかの私と違い、彼は本物の『音質までこだわる玄人』だったのだ。
『また話そうぜ。聖歌』
だが、和基は私を自分と同類の人間だと思ったらしく、それ以来、音楽関係の話をしてくるようになった。
昨日、私と和基が話をしているところを花純に見られたのだろう。
それにしてもしゃべっていただけなのに、それを『付き合っている』と思うなんて、いくらなんでも飛躍しすぎだよ。
「基本的に音楽の話しかしないよ。それだけの関係だって」
「あー、確かに吉田君っていつも音楽を聞いているってイメージ……つまり玄人同士、話が合ったってこと?」
花純、和基は本物だけど私は偽物です。にわかです。
イヤホンやアプリで音質の善し悪しが変化したのを実感できない、かわいそうな聴覚の持ち主です。
「うん。まあ、そんなところかな?」
はい、何気なく自分も玄人発言!
一番の友人にすら自分のダメなところを明かせない。つい、すごい自分を演出してしまう……ごめんなさい、見栄っ張りな性格なんです。
「なーんだ。つまんないの……でもよく吉田君と普通に話せるね。音楽は国境を越える、ってこと?」
「へ?」
意味がわからなくて、私は変な声を出してしまった。
花純が視線を教室のすみに向ける。
「……吉田君って良く言えばクールキャラだけど、正直、怖い系だよね。目つきも悪いし。聖歌って、あの手の男子は苦手だと思ってた」
花純の視線は教室にいた和基に向けられていた。
彼女の言う通り、和基は普通の男子とはちょっと違っていた。
彼は、1年C組で『アンダーポイント5人組』と呼ばれている少し不良っぽい男子達の一人だった。
リーダー格の鳴島隆人や風澤望、熊谷冬弥などは騒がしい感じだけど、和基は彼らとは対照的に寡黙だ。五人で集まっている時もあまりしゃべらないし、表情もほとんど変えない。
アンダーポイント5人組の中で一番クールでミステリアスな人物だけど、それは「何を考えているのかわからない」「不機嫌そう」「なんか怖い」という意味でもある。
(確かに、私ってこの手の男子って苦手だ。話しかけても無視されそうだし、気むずかしい性格してそうだし、何より怒っているように見えるから怖い。そんな奴を相手にしたらめちゃくちゃ疲れる上に、最悪、ウザがられたりするからムカつく!)
でも和基は違った。
話してみると、意外に気さくでちょっとかわいい一面もあったり、仲良くなるとむこうからどんどん話しかけてくる。まるで年下の従兄弟に懐かれた様な感じだ。
だが私以外の人間にとっては違うようだ──まあ、普段があんなだから無理ないけど。
「アタシ、吉田君が笑っているところなんて、ほとんど見たことがないけど」
「そうなの? 私は何度かあるよ」
と言うか、和基はめちゃくちゃ笑う。あの人、超イイ笑顔するから。
あの笑顔を見たら花純もいつもの彼とのギャップにびっくりすると思う。
「へえ、そうなんだ。吉田君って良く見るとイケメンぽいから……がんばりなよ、聖歌」
「え?」
私はまた変な声を出してしまった。
「何言ってるの。私と和基はそんな関係じゃ……」
私は慌ててしまい、自分が『和基』と呼び捨てにしたことにすら気づいていなかった。
そして花純は、それを聞き逃しはしなかった。
「ほーほー、とりあえず下の名前で呼び合う仲ではあるんだ」
「そ、それは……和基から言い出したことで、その……」
「あー、また和基って言った」
「だから、それは──」
花純への釈明に、残りの昼休みと放課後の一時間を費やすことになった。
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2029年、六月上旬。
桜井聖歌の高校生活は始まったばかり。
あと数週間で、暑い暑い夏がやってくる。
作:津上蒼詞