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超能力を持つ学生たちの青春を描くWeb小説『プラスチャイルド』のSSや設定などを公開しています。
制作:textscape

2014/10/24

+Cな日々 その55
(シティ・チェイス)

 あたしの名前は一条ひなた。
 結波市で超能力を悪用する違反者を取り締まる『生徒会』の『執行部』に所属している。
 あたしの検挙率がトップの実績であったため、周りからは「執行部のエース」なんて呼ばれているけど、中身は普通の高校一年生の女の子よ……少なくとも自分ではそう思っている。

+ + +

 その日、夕食を終えてからリビングでのんびりしていると、同居人の風澤望が学生証の画面を見つめながら、時々、あたしの方に視線を送っている事に気づいた。

「さっきからどうしたの?」
「いや、たいした事じゃないんだけど……」

 望はそう言いながら自分の学生証を差し出してきた。

「これって、ひなただよね?」

 そこには黒髪サイドテールの女の子とその足下で土下座している男子学生の画像が映し出されていた。

 あたしだった。

 これは、昨日の任務で違反者を捕まえた時の画像ね。
 あの時は周りに一般の学生もいたから、そのうちの誰かがネットに上げたモノかな?

「そう、あたしよ……でも、すごいタイトルが付いているのね『命乞いをする違反者』だって、いくら執行部でも命までは取らないわ」

 とは言ったものの、こうして画像を見ると違反者の男子学生からは鬼気迫るモノを感じるわね。この画像をアップした人物が「命乞い」という言葉をタイトルに使ったのもわからないではないかな。

 ちなみに画像のような状況になった理由は、もちろん命乞いをさせたからではない。

 昨日、葉澄先輩から呼び出されたあたしは、今回の違反者が自分と同じ高速移動の使い手と聞かされて内心ワクワクしていた。

 同じ能力者同士の戦いは、互いに同じ土俵で戦うことを意味している。
 異なる能力者同士の戦いとは違い、自分の力量を測るのにうってつけなのだ。

 その上、なぜか結波市で高速移動を使える能力者は、能力を悪用しない傾向にあるのよね。
 葉澄先輩はその理由を知っているみたいだけど「大丈夫、一条さんは知らなくていいわ」と言って詳しく教えてくれない。なにが大丈夫なんだろう? まあ、いいわ。そんな理由から、あたしは滅多にないこのチャンスに心が躍っていた。

 ──けど、期待した結果は得られなかったのよね。

 あたしを含めた執行部第一機動隊が駆けつけると、違反者は追っ手を振りきろうと高速移動を使って逃亡を始めた。
 高速移動が使える隊員はあたしだけだったので、今回は単独で違反者を追跡することになった。

 追跡から間もなく、違反者との距離は縮まり、逃げる相手の背後にぴったりとくっつく形になった。
 どうやら彼は最高速度で振り切ろうとしているようだったけど、あたしは軽く流している程度だった。

 それでも、右へ左へ無秩序に逃げる高速移動の使い手を超近距離で追うのは、それなりに集中力が必要だったので「動体視力の訓練になるかも?」と、今考えると不謹慎な事を思っていたのよね。

 で、追跡を初めてから1000メートルほど走った辺りだったかな。

 突然「許してください。降参します。すみませんでした」と彼がその場で土下座を始めたの。
 どうやら背後にぴったりと付かれた状態で、1000メートルも追われたのがよっぽど怖かったみたい。
 移送車両に乗せられるまで、彼はずっと下を向いたまま、あたしを見ようとしなかったわ。

 こうして、久しぶりの高速移動対決はなんだか消化不良のまま終了した。
 まあ、無事に違反者を取り締まる事ができたんだから不満に思う必要なんてないんだけどね。

 望の学生証に映っていたのは、その時の土下座シーンだ。

「この画像、すごい人気が出てるみたいだよ」
「え、そうなの?」
「ほら、コメントがたくさん書かれているでしょ?」

 コメント欄を確認すると望の言った通り、「超かっこいい」「一条ひなた、でしょ?」「土下座wwwww」など様々な書き込みがされている。

 中には「俺もひなた様に土下座したい」「俺は踏まれたい、踏んでください!」という書き込みもあったけど、それは見なかったことにしよう。うん。

+ + +

 あたしの名前は一条ひなた。
 周りからは「執行部のエース」なんて呼ばれているけど、中身は普通の女の子よ。

 ──と思っているのは、もしかして自分だけなの?


作:津上蒼詞